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ささいな誤解とエトセトラ。

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2.






――なぜその場で反論できなかったのか。
その後、何度くやんだだろうか。
だが常識の範囲を超える発想を垣間見て、ツナは、しばし絶句してしまったのである。
おんなのこ?
だれが?
オレが?
たった一回、女物の服を着ているところを目撃しただけで、どーしてそう一足飛びの結論にたどりつくのか。
ツナはガタリと肩を落として、にこにこ座っている山本を見つめた。
(山本…山本の考え方…わからないよ……)
「あ、あの、や、山本…ちょっと聞いて欲しいんだけど……」
「ん、安心しろ、誰にも言ったりしねーから」
「いや、そーじゃなくて、あの、さっきのはさ……」
はた、と、口ごもる。どう説明すれば、もっとも誤解が少なくわかってもらえるのか。

その躊躇が悪かった。
次に口を開くより早く、玄関チャイムが鳴り響いたのだ。
続いて「こんにちは、おかーさま! おいしそーな大根があったんで、召し上がっていただこうとお持ちしました!」と嬉しそうな声。獄寺だ。とにかく敬愛する十代目のうちに参上できるのなら、なんでもいいからかこつけるのである。
さらに物音は続く。
「あら隼人」
「がはあっ」
がしゃがらがたたーん!
――ツナは頭を抱えた。
音だけでも、なにが起きたのかわかりすぎるくらいわかってしまうのがイヤだ。
「……ちょっとオレ、仲裁しに行ってくる……」
「あ、オレも行くわ。誰か獄寺運ばなきゃだろ」
山本のほうも慣れたもので、けろりとそう言って腰を上げた。


ビアンキをリビングに追い戻すと、ツナは、玄関のたたきにひっくり返っている獄寺の前にしゃがみこんだ。
「獄寺くん、大丈夫? ビアンキいなくなったよ」
「も、申し訳ありません十代目…」
「立てるかー? ツナの部屋行くの、手伝うぜ」
「んでおまえがここにいんだ、野球ヤロー。さわんな」
どれだけぐったりしていても、獄寺は獄寺だった……。
結局、山本の肩を借りて獄寺はツナの部屋に上がった。二人に続いて階段を上りながら、ツナは考えていた。

――できれば、女装の弁明は、獄寺にも聞かれたくない。
ツナの女装話に、獄寺がどう反応するか、ツナにはまったく予想がつかなかった。崇拝する十代目がやることなら、すべてにおいて感動しないではおられないらしい獄寺である。いまさら女装の話でツナをからかうとも思えない。おもえないが――なんと言っても、相手は獄寺なのだ。
ツナは、彼の忠誠の基準がどこにあるのか、いまいちつかめていなかった(つまり獄寺が何故、かくもツナに敬慕の念を注ぐのかが)ので、女物の服を着るという行為が、彼の中でどう処理されるのかもつかめなかった。
そんなことはやめてくださいと泣かれるならまだマシだ。そんな軟弱なヤローは十代目として認められねえ! と暴れ出したりするかもしれない。
かれが「完全無欠の十代目」妄想からさめてくれるのは大変にありがたいが、家の中でダイナマイトを使われたらおしまいだ。
いや、もしかすると、さらにその予想を裏切る反応だってあるかもしれない。具体的にはよくわからないけど。
ツナにはよくわかっていなかったが、例えばその「もっと悪い事態」とは、獄寺が驚きののち比較的スムーズにその話を受け入れた上、「右腕は全てを把握していなければならない」などと主張して再度の女装を求めることであったかもしれない。しかもなぜか頬を赤らめながら。

(……この次、山本と二人だけになったときに、説明しよう……)
こっそりうなずいて、「山本」と声をかける。
「……山本、さっきの話なんだけどさ」
「おー?」
獄寺を支えながら、肩越し、明るい目で振り向く山本に、ツナは、
「また今度ちゃんと話すけど、とりあえず、さっきのは早とちりなんだってのだけ……」
「ん。わかってるわかってる。心配すんなよ」
山本は深く考えていない笑顔になり、親指と人差し指で「まる」を作ってみせた。ツナは、その笑顔に、がびーんとなった。
(た、ただの言いわけだとおもってるー!?」
「……なんのお話ですか十代目」
大事なことには気がつかないくせに、気がついて欲しくないことにばかり気がつく自称右腕が、ふらふらと反応した。顔色は真っ青なのに、やたら目つきだけは鋭い。
「な、なんでもない。ね、山本?」
「お? あー、世間話世間話」
山本も察しよく同調した。さすが山本。こんなときでさえ、ついツナは山本に感心した。しかし、山本へ向けた獄寺の視線は鋭さを増した。
「ファミリーの話でしたら、オレもうかがいますが」
「ち、違うよ、もっと、あの、えーと、」
「学校の話とか、そんなんだよな。あー、ツナあれやったか? 補習の宿題」
「あっ、うんうん……じゃなくて、ううん、まだ! 山本は?」
「よかったー、一緒やろうとおもって持ってきた。獄寺、教えてくれよ」
ツナも二人の先回りをしてドアをあけてやりながら、できるだけ穏便に頼み込んだ。
「ご、獄寺くん、数学なんだけど、教えてもらっていいかな」
「……十代目がそうおっしゃるなら」
根が単純な男である。獄寺は、十代目に頼られたという喜びのため、およそ約三秒で機嫌を直した。