アルバム
一冊のアルバムを前に
公園の石のテーブルを挟んで向かい合う二人
腕組みをして
怒りの色も露わな門田京平と
テーブルの上に頬杖をつき
組んだ脚を揺らしている六条千景と
「て言うかさぁ」
オッサンが悪いんじゃん
と
六条千景が発した言葉に
門田京平の怒りの色がもっと濃くなり
それを見た千景がちょっと肩を竦めて
頬杖を取って椅子にもたれかかる
「だってそうだろ?あんたが最初から素直に」
持ってるアルバム見せてくれてたらさぁ
「何も俺だって別ルートで見なくていいワケじゃん?」
「・・・お前のその論理は」
根本的に
間違ってると思わねぇのか
と
門田がごく低い声で言い
そのあまりの迫力に普通の人間なら臆するところ
目の前に座った六条千景は実に嬉しそうに
ニヤリと笑う
「・・・笑うな。俺は不愉快だ。」
「仕方ねぇじゃんか。オッサン格好いいもんよぉ。」
「・・・黙れ。」
有無を言わさず
バッサリと千景の発言を遮る門田に
あーらら
こりゃホントに怒らせちまったなぁと
六条千景はポンと帽子の後ろを押しあげて
目を隠して軽く溜息をつく
「・・・ごめんって。」
「・・・それで詫びてるつもりか?」
「詫びてねぇよ?悪いと思ってねぇもん俺。」
「お前は!!」
ダン!!と
足もとを蹴った門田から
ひらりと脚を退けて事なきを得た千景が
それは嬉しそうにニッと笑って
飛びずさり
「やる?」
と
身構えるのを
門田は綺麗に無視してアルバムに手を伸ばす
「・・・ったく。何処から持って来やがった。」
「んん?ガッコの図書室?」
「盗んだのか?」
「まさか。ちゃんと返すって。もう見たし。」
「一体誰にやらせた?狩沢達か?」
「んー。企業秘密。」
「ったく・・・。今度やったら許さねぇぞ?」
「あはは。もう十分見たからいいって。」
「お前な!!」
これは一種の犯罪だぞ
解ってんのか
と
千景の頭を思い切りアルバムで叩こうとして
学校からの借り物なのに気付いて止めた門田を
千景が帽子のつばの下から面白そうに見る
「オッサン・・・律儀だよなぁ?」
「馬鹿が!!」
今度こそ
アルバムを持たない方の手で
思い切り千景の頭を殴った
「いってぇえ・・・!」
「当たり前だこの馬鹿者が!」
しかし
いつもなら避けられるはずの動きを
あえて避けずに殴られたのは
千景なりのけじめだったのだろうと
門田はそこは汲み取って
まぁ仕方がねぇ許してやるかと怒りを静める
「なぁこれ結構本気で痛ぇんだけど」
オッサン
と
帽子の上から頭をさすりながら千景が苦笑する
「当たり前だ。そんくれぇの悪さだぞ、こりゃ。」
と
門田がアルバムを振り上げ
「どうせ遊馬崎か狩沢に頼んだんだろうが」
俺から戻しとくからな
と
行きかける背中に
千景が慌てて声を掛ける
「え?もう行くのかよ?」
「はぁ?たりめぇだろが?俺は単なる仕事の昼休みだ。」
ガキと遊んでるヒマねぇんだよ
と
門田が言うまでもなく
今の彼の出で立ちは灰色の繋ぎに頭にはタオル
ポケットに軍手を突っ込んだ由緒正しい職人の姿だ
「・・・ムリ言って出てこさせて悪ぃ。」
と
すると今度は千景が首を押さえて項垂れて
本当に恐縮して言うもので
そうなると
少し
可哀想に思えてつい
携帯の時計を確認してしまうのが
門田京平という男で
だからこそ六条千景が懐いて仕方無いのだと言う事を
未だ持って門田は学習できないらしかった
「・・・後15分だ。」
携帯を確認した門田が
溜息をついて
ドサリと椅子にまた腰掛ける
「え、いいのかよ?」
途端に
(それは半ば彼の計算通りでもあるのだが)
ぱああっ、と子供のように顔を輝かせて
向かい側の椅子に腰を落とす千景が笑顔になるもので
それはそれで困ってしまい
門田京平がぽりぽりと首を掻く
こういうところ
千景は本当に素直に喜びを表すので
まるで尻尾を振る子犬か何かのようで
だから
要するに
ついつい構ってやってしまう
「お前は・・・そんなに嬉しいか。オッサンと喋って?」
「はぁ?んなの当たり前じゃんか。」
その為にわざわざ
ハニー達振り切って
「コッチまで出て来てんだろ。穴埋め大変なんだぜ?」
「・・・だから来なくていいと言ってるだろうが。」
「だって京平に会いてぇもん。」
「京平言うな。」
「じゃあオッサン。」
一体今まで何度
このテの会話を繰り返して来た事か
それは数えれば呆れる程なのだが
二人にとってお約束の会話は単なる導入部だ
「つぅかさぁ?」
と
そこでやっと
今日の本題に入るつもりの千景の瞳が
ストローハットの下で
先程の塩らしさは何処へやら
きらりと強気に光を増す
「オッサンさぁ。」
と
千景は
門田の抱えたアルバムを引っ張って取り
テーブルの上へと広げてトントンと指を差す
「これ、何?」
「何って・・・集合写真だろうが?」
「んな事訊くワケねーじゃん。ココ。」
「・・・俺だろうが。」
「うん。若い時のオッサンもかっけーよなぁ。」
「・・・たった数年前だがな。確かに若い。」
「んで。ココ。」
と
千景の指先が移動して
同じ集合写真に写っている一人の男の上で止まる
「こいつ、誰よ?」
「・・・何故だ?」
「何でも。」
じいっと
千景の瞳が門田を追い詰め
さすが
こういう眼力の強さは
To羅丸のヘッドだけありやがるな、と
門田京平は妙なところに感心して
その瞳を見つめ返す
「言わねぇ気かよ?」
「いや?ソイツの名前が聞きてぇのか?」
「うーん。名前っつか。」
ぶっちゃけ
アンタとの
関係?
と
千景がアッサリと白状して
その思いがけなさに
門田がしばし
瞠目する
「はぁ?」
「だからさぁ。こいつ、京平の何?」
「何、ってお前・・・。」
単なる
同窓生とか同級生という奴だろうが
と
言う門田を
千景の瞳がまたじいっと見つめている
「・・・解った。信じるわ。」
椅子の背に背中を打ち付けてそう言って
それから少しだけ
ふっと千景が
苦笑する
「わざわざ悪かったな。忘れてよ?それ返しといて?」
「・・・あぁ。」
「んじゃ。オッサンそろそろ時間だろ?俺ももう行くわ。」
珍しく
千景が門田を残して先に席を立つ
いつもは
行こうとする門田を待て待てと引き留める専門の千景の
その仕草が気になって
門田がオイと身を乗り出してその手を引く
「・・・何よ?仕事の時間だろ?」
「まだ後5分ある。座れ。」
「何で?」
「いいから座れ。」
と
強引に門田が千景の腕を引き
バランスを崩した千景が
テーブルに手をついてよろめいて
その瞬間
真近くになった門田の瞳を見て
苦笑したまま
ちゅ、と掠めるように唇を奪う
ここは公園だぞと
門田は思うが
千景の珍しいそんな顔がそれよりも気になり
「・・・言いてぇ事がありそうだが?」
と
千景の瞳から目を逸らさずに言う
千景もまた
そんな門田から瞳を逸らさずに居たが
やがて両手を降参の形に挙げて溜息をつく
「・・・気に入らねぇのよ。」
「それは解る。お前は解り易いからな。だから何が」
公園の石のテーブルを挟んで向かい合う二人
腕組みをして
怒りの色も露わな門田京平と
テーブルの上に頬杖をつき
組んだ脚を揺らしている六条千景と
「て言うかさぁ」
オッサンが悪いんじゃん
と
六条千景が発した言葉に
門田京平の怒りの色がもっと濃くなり
それを見た千景がちょっと肩を竦めて
頬杖を取って椅子にもたれかかる
「だってそうだろ?あんたが最初から素直に」
持ってるアルバム見せてくれてたらさぁ
「何も俺だって別ルートで見なくていいワケじゃん?」
「・・・お前のその論理は」
根本的に
間違ってると思わねぇのか
と
門田がごく低い声で言い
そのあまりの迫力に普通の人間なら臆するところ
目の前に座った六条千景は実に嬉しそうに
ニヤリと笑う
「・・・笑うな。俺は不愉快だ。」
「仕方ねぇじゃんか。オッサン格好いいもんよぉ。」
「・・・黙れ。」
有無を言わさず
バッサリと千景の発言を遮る門田に
あーらら
こりゃホントに怒らせちまったなぁと
六条千景はポンと帽子の後ろを押しあげて
目を隠して軽く溜息をつく
「・・・ごめんって。」
「・・・それで詫びてるつもりか?」
「詫びてねぇよ?悪いと思ってねぇもん俺。」
「お前は!!」
ダン!!と
足もとを蹴った門田から
ひらりと脚を退けて事なきを得た千景が
それは嬉しそうにニッと笑って
飛びずさり
「やる?」
と
身構えるのを
門田は綺麗に無視してアルバムに手を伸ばす
「・・・ったく。何処から持って来やがった。」
「んん?ガッコの図書室?」
「盗んだのか?」
「まさか。ちゃんと返すって。もう見たし。」
「一体誰にやらせた?狩沢達か?」
「んー。企業秘密。」
「ったく・・・。今度やったら許さねぇぞ?」
「あはは。もう十分見たからいいって。」
「お前な!!」
これは一種の犯罪だぞ
解ってんのか
と
千景の頭を思い切りアルバムで叩こうとして
学校からの借り物なのに気付いて止めた門田を
千景が帽子のつばの下から面白そうに見る
「オッサン・・・律儀だよなぁ?」
「馬鹿が!!」
今度こそ
アルバムを持たない方の手で
思い切り千景の頭を殴った
「いってぇえ・・・!」
「当たり前だこの馬鹿者が!」
しかし
いつもなら避けられるはずの動きを
あえて避けずに殴られたのは
千景なりのけじめだったのだろうと
門田はそこは汲み取って
まぁ仕方がねぇ許してやるかと怒りを静める
「なぁこれ結構本気で痛ぇんだけど」
オッサン
と
帽子の上から頭をさすりながら千景が苦笑する
「当たり前だ。そんくれぇの悪さだぞ、こりゃ。」
と
門田がアルバムを振り上げ
「どうせ遊馬崎か狩沢に頼んだんだろうが」
俺から戻しとくからな
と
行きかける背中に
千景が慌てて声を掛ける
「え?もう行くのかよ?」
「はぁ?たりめぇだろが?俺は単なる仕事の昼休みだ。」
ガキと遊んでるヒマねぇんだよ
と
門田が言うまでもなく
今の彼の出で立ちは灰色の繋ぎに頭にはタオル
ポケットに軍手を突っ込んだ由緒正しい職人の姿だ
「・・・ムリ言って出てこさせて悪ぃ。」
と
すると今度は千景が首を押さえて項垂れて
本当に恐縮して言うもので
そうなると
少し
可哀想に思えてつい
携帯の時計を確認してしまうのが
門田京平という男で
だからこそ六条千景が懐いて仕方無いのだと言う事を
未だ持って門田は学習できないらしかった
「・・・後15分だ。」
携帯を確認した門田が
溜息をついて
ドサリと椅子にまた腰掛ける
「え、いいのかよ?」
途端に
(それは半ば彼の計算通りでもあるのだが)
ぱああっ、と子供のように顔を輝かせて
向かい側の椅子に腰を落とす千景が笑顔になるもので
それはそれで困ってしまい
門田京平がぽりぽりと首を掻く
こういうところ
千景は本当に素直に喜びを表すので
まるで尻尾を振る子犬か何かのようで
だから
要するに
ついつい構ってやってしまう
「お前は・・・そんなに嬉しいか。オッサンと喋って?」
「はぁ?んなの当たり前じゃんか。」
その為にわざわざ
ハニー達振り切って
「コッチまで出て来てんだろ。穴埋め大変なんだぜ?」
「・・・だから来なくていいと言ってるだろうが。」
「だって京平に会いてぇもん。」
「京平言うな。」
「じゃあオッサン。」
一体今まで何度
このテの会話を繰り返して来た事か
それは数えれば呆れる程なのだが
二人にとってお約束の会話は単なる導入部だ
「つぅかさぁ?」
と
そこでやっと
今日の本題に入るつもりの千景の瞳が
ストローハットの下で
先程の塩らしさは何処へやら
きらりと強気に光を増す
「オッサンさぁ。」
と
千景は
門田の抱えたアルバムを引っ張って取り
テーブルの上へと広げてトントンと指を差す
「これ、何?」
「何って・・・集合写真だろうが?」
「んな事訊くワケねーじゃん。ココ。」
「・・・俺だろうが。」
「うん。若い時のオッサンもかっけーよなぁ。」
「・・・たった数年前だがな。確かに若い。」
「んで。ココ。」
と
千景の指先が移動して
同じ集合写真に写っている一人の男の上で止まる
「こいつ、誰よ?」
「・・・何故だ?」
「何でも。」
じいっと
千景の瞳が門田を追い詰め
さすが
こういう眼力の強さは
To羅丸のヘッドだけありやがるな、と
門田京平は妙なところに感心して
その瞳を見つめ返す
「言わねぇ気かよ?」
「いや?ソイツの名前が聞きてぇのか?」
「うーん。名前っつか。」
ぶっちゃけ
アンタとの
関係?
と
千景がアッサリと白状して
その思いがけなさに
門田がしばし
瞠目する
「はぁ?」
「だからさぁ。こいつ、京平の何?」
「何、ってお前・・・。」
単なる
同窓生とか同級生という奴だろうが
と
言う門田を
千景の瞳がまたじいっと見つめている
「・・・解った。信じるわ。」
椅子の背に背中を打ち付けてそう言って
それから少しだけ
ふっと千景が
苦笑する
「わざわざ悪かったな。忘れてよ?それ返しといて?」
「・・・あぁ。」
「んじゃ。オッサンそろそろ時間だろ?俺ももう行くわ。」
珍しく
千景が門田を残して先に席を立つ
いつもは
行こうとする門田を待て待てと引き留める専門の千景の
その仕草が気になって
門田がオイと身を乗り出してその手を引く
「・・・何よ?仕事の時間だろ?」
「まだ後5分ある。座れ。」
「何で?」
「いいから座れ。」
と
強引に門田が千景の腕を引き
バランスを崩した千景が
テーブルに手をついてよろめいて
その瞬間
真近くになった門田の瞳を見て
苦笑したまま
ちゅ、と掠めるように唇を奪う
ここは公園だぞと
門田は思うが
千景の珍しいそんな顔がそれよりも気になり
「・・・言いてぇ事がありそうだが?」
と
千景の瞳から目を逸らさずに言う
千景もまた
そんな門田から瞳を逸らさずに居たが
やがて両手を降参の形に挙げて溜息をつく
「・・・気に入らねぇのよ。」
「それは解る。お前は解り易いからな。だから何が」