アルバム
気に入らないのか
言え
と
言う門田に
千景の強気な瞳がきらりと輝き返す
「言いたくねぇ、つったら?」
「・・・なら言わなくてもいいが。」
「んじゃ決まり。言いたくねぇもん俺は言わねぇ。」
「・・・そうか解った。」
「んじゃ!」
またな
オッサン
と
身軽に駆けてゆく千景の背中を
門田は見送って
溜息をつく
何なんだ
あいつは
いつもの
人懐こい笑顔に
あまりにも自分が慣らされて居た事に
門田京平は気付いてタオルの上から髪を掻く
そしてもう一度溜息をついて
仕事に行くかと
立ち上がったその時
「あれぇ」
ドタちん
何してんのかなぁ?
と
如何にもな笑みを含んだ声
「・・・臨也。・・・見てやがったのか。嫌な野郎だ。」
「あはは。公然とこんなトコでキスしちゃう方がアレじゃない?」
と
予想通りの反応で
折原臨也がニコニコと
さっきまで千景が座って居た場所に腰掛けて
「まぁ座りなよ?」
と
門田に嫌味に微笑みかける
「断る。俺は仕事なんでな。」
「まぁそう硬いこと言わずに。あの子が傷ついちゃったワケ」
知らなくて
いいのかなぁ?
と
折原臨也が
ワザと
『傷ついちゃった』
と
いう言葉を使っていると
そんな事は百も承知の門田だったが
それでも
思わずストンと座ってしまったのは
自分でも意外な行動だった
「フフ。まぁそれ。よく見て見ることだね?」
「・・・悪いが俺にはサッパリだ。」
アルバムを顎でさす折原臨也に
門田はきっぱりと白旗を揚げる
すると
わざとらしく臨也が肩を竦めて大仰に溜息をつく
「本気なの、ドタちん?」
「俺をドタちんと呼ぶな。」
「さっきのページ、もう一度出してホラ。」
と
臨也に言われるままにさっきのページを開く門田
チョンチョンと
臨也の指輪を嵌めた右手の人差し指が
写真の中の門田と臨也自身を行き来する
「まだ気付かない?なら言うけどね。俺とドタちんの服装。」
「・・・服装?」
「そ。短ランに赤シャツ。まるでお揃い。これで解った?」
あ、
と
門田は思わず声をあげ
それを見て折原臨也が心の底から楽しそうに笑う
「全くさぁ、ホントに気付かないわけ?ありえないレベル。」
「・・・まさか手前と同じだと誰が思うかよ。」
「あははぁ?そうだったんだ?俺は当時から気付いてたよ?」
「・・・なんで気付かねぇんだ俺・・・。」
「さぁね?」
それは
ドタちんが俺のこと
「眼中に無かったから、じゃない?」
的確な指摘をして
折原臨也が立ち上がる
「今日の情報提供の見返り、期待してるよドタちん?」
「・・・手前に売る情報なんぞ無ぇ。」
「フフ。シズちゃんの情報待ってるよ?」
と
ひらりと門田の周囲を回るようにして
折原臨也が
顔を門田に近づけて囁く
「フフ。この角度、余所から見たら」
まるでキスしてるように
見えるかもね?
と
唇が触れそうな距離で囁いて
臨也がパッと身を翻し
大笑いしながら駆け出した
「臨也!!手前!!」
と
立ち上がった門田が見たのは
ポケットに
両手を入れて立っている千景の姿
「・・・オッサン」
隙見せんのは
俺だけにしとけよな
と
苦笑した千景が近寄って来て
門田の前に立つ
「・・・悪かった。」
「別に。謝ることねぇじゃん。」
「俺は結構鈍いんだ。」
「知ってる。隙だらけだしよ。」
「臨也とはキスしてねぇぞ?」
「してたら今頃ぶっ飛ばしてる。」
あいつが
折原臨也かよ
と
千景が苦笑して肩を竦めた
「成る程な。噂通りっつか。以上だわ。ありゃ。」
「あぁ。嫌味な情報屋だ。」
「でもアンタの事はよく解ってんじゃん。」
「情報屋だからな。」
「それもそうだ。」
門田の
目の前で
千景がクイと小首を傾げて
笑わずに言う
「京平からキス。」
「・・・はっ?」
「京平からしろよ。キス。」
千景が本気なのは
瞳を見て
解る
解った
と
言う代わりに
門田はいきなり
千景の顎を取ると
唇を重ねる
前振りも何もなく
あまりにいきなりの動きに
さすがの千景もついてゆけず
口付けされたまま
瞳が丸くなる
「これでいいな?」
じゃあ
俺は仕事だ
時間が押してる
と
門田は言い置いて
「悪かった」
と
もう一度言い
千景の帽子をクイと引き下げて
「・・・顔が赤いぞ?」
と
囁くと
千景が
帽子を上げた時にはもう
公園の出口を
門田の背中が走って消えるところで
ったく
俺一人
バカみてーじゃん
と
呟いた千景が
ニッといつもの笑みを浮かべて
さぁて
では
折原臨也とか言う男を
ノシに行くか
と
拳をパシンと
掌に
打ち付けた