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ステップ・アップ

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黄昏甚兵衛に指摘されて見たタカ丸さんの足の膝は、カミソリの練習でついたという傷で一杯だった。





ステップ・アップ





「タカ丸さんはどうして忍術学園に入ったんですか?」
あれ以来、ますます疑問だったことをたずねてみた。聞かれた本人は、「えっ?」っと一瞬驚いた後、困ったような笑顔を浮かべたまま、黙り込んでしまった。

まただ。
だから僕はこの人が苦手なんだ。

僕の周りの人間は、喜怒哀楽がはっきりしている人が多い。そしてそれを、そのままストレートに僕に伝えてくる。僕のこれまでの人間関係は、そんな人々によって作り上げられていた。

でもこの人は違った。

いつも笑みを浮かべているような顔をして、曖昧な表情を浮かべたまま言葉を濁す。あの一年は組並み(下手すりゃそれ以下)の忍術の知識しかなくて、しょっちゅうへまをする。そのくせ、時々妙に大人びた表情で、大人びた言葉を口にする。

一言でいえば、つかみにくいのだ。
一見するとこの人がまとう穏やかな空気に騙されそうになるが、その本心はなかなか他人に――少なくとも、僕には、つかませてくれない。つかんだと思ったその瞬間、いつのまにやらするりと手の隙間からすり抜けている、そんな存在なのだ。

この人と接していると、自分には人の感情を読み取る能力がないのかと不安になる。忍者としても重要な能力であるはずだ。(おそらく、うぬぼれでなく)優秀な忍たまであるはずの僕が、その能力が劣っているとは認めたくなかった。
そして少し――ほんの少しだけ、タカ丸さんは僕には本音を聞かせてくれないのだろうか、と考えて、憂鬱になったりもした。


「どうして忍術学園に入ったかってね…」
「ぅわぁ!」
いつの間にやら考え込んでしまっていたらしい僕は、突然声をあげたタカ丸さんに驚いて、間抜けな声を出してしまった。
「大丈夫?」
くすくすとした笑い声交じりに、タカ丸さんがたずねてくる。その笑い声にあおられ、頬が熱くなってくるのがわかる。
「…続けてください。」
赤くなった顔を隠すように伏せ、そう言う。
タカ丸さんは少しくすくす笑ったあと、しばらくの間をおいて、ゆっくりと口を開いた。

「…僕ね、忍術学園に入ったきっかけは、同年代の子と、思い出作りがしたかったからなんだ。」
「へっ!?」
作品名:ステップ・アップ 作家名:knt