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どうしようもなく。

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頼久は時々どうしようもなく、格好良い。

「やっぱ男は背中でしょ!」
グッとこぶしを握って、あかねが力強く言った。
「そうね、肩幅が広い男はイイわよね~」
蘭もうんうんと同意を示し、それを見た藤姫が首をかしげる。
「そういうものなのですか?」
チリンと冠が鳴り、天真は小さくため息をもらした。

よく晴れた日の昼下がり、左大臣家土御門殿の一室。
他愛無い話から始まったはずの雑談は、いつの間にか少女たちの『いい男トーク』になっていた。

「またその話かよ…こないだ詩紋といたときも話してたじゃねーか」
天真は少々ウンザリして口を挟むが、それには蘭が肩をすくめただけで。
「だって、やっぱり頼りがいがある人がいいじゃない!ねえ藤姫、少なくとも自分を守ってくれそうな逞しさは必要よね?」
あかねは軽く流し、藤姫に話を振った。
「ええと…そうですわね、心細い時など傍にいてくれる方はやはり…」
何か思い出したのか、藤姫の頬がポッと赤く染まる。
「だよねー!やっぱ男はさ、広い背中と肩幅と!」
「大きな手!包容力のある腕!顔も良いとなお良しー!」
互いに指を差し合って、あかねと蘭のトークは止まらない。

と、ふいにあかねがぐるっと顔をめぐらせて天真を見た。
「そっかー、天真くんも結構肩幅広いよね!」
「…あ?」
なんとなく悪寒がして、天真はギクリと肩を強張らせる。
「うん、お兄ちゃん背も高いしね。ね、ちょっと手出して?」
そう言いつつ、天真が手を出す前に蘭が掴んで引っ張ったので、天真は反射的に身を引いた。
いや、引こうとしたが、できなかった。
「あ、いいよねーこのちょっと骨ばってて、細く長くかつしっかりした手!」
ペタリと蘭が手のひらを合わせる。
「うん、やっぱりこのくらいは大きくないとダメだよね!お兄ちゃんいいセンいってるよ!」
「…そりゃどーも」
こんなマニアックな誉められ方してもあんまり嬉しくない。
といってそれを口にするのも恐ろしかったので、天真は引きつった笑みを浮かべてやり過ごした。
「では他の方はいかがですか?八葉の中では…」
少女の血が騒ぐ(と天真は呼んでいる)のか、藤姫は嬉々として尋ねてくる。
あかねと蘭も生き生きとして藤姫を振り返った。
「八葉だと?そうね、やっぱり大人の人はいいよね。友雅さんとか…」
「文官だけど鷹通さんも頼り甲斐あるよ。あと頼久さんね。武士だし!」
きゃぴきゃぴと話をはずませる少女たちを横目で眺めて、天真は今日だけでももう何度目になるかわからないため息をつく。
解放されたばかりの手で前髪をかきあげると、ふと廊下の向こうに目をやった。
(…あ)
すたすたともしずしずともつかぬ、彼特有の静かな歩き方でこちらに向かってくる。
「頼久!」
呼ぶと、彼も気付いたようでこちらを見やって、目だけでふっと笑んでみせた。

(うわ)

「あ、頼久さん!こんにちは」
「こんにちはー」
少女たちも気付いて挨拶をする。
頼久は二人に頭を下げ、藤姫に声をかけた。 
「藤姫様、おとど様がお呼びです。なんでも、手が離せないのでお渡り下さるようにと」
「まあ…わかりました。ではおふたりとも、私は少し席を外させていただきますが…」
頼久の後ろから部屋に入ってきた女房たちに手伝われながら、藤姫は席を立つ。
「うん、私たちここで話してるね。行ってらっしゃい」
あかねに微笑まれて、藤姫は笑みを返しながら部屋を出て行く。
頼久はそれを、一歩退いて見守っていた。
天真はなんとなくその体格、肩のあたりを眺めていた――ので、突然彼がくるりとこちらを振り返ったのに素でびっくりした。
「天真」
「うおっハイ!」
ドキーン!と肩を揺らした天真に首をかしげながら、頼久は口を開く。
「このあと用事はあるか?もしよければ、手空きなので剣を見てもいいが」
「あ、ああ。じゃあ行く」
正直、彼女たちのトークに付き合うのもほとほと困り果てていたところだ。
他にすることもないので加わっていただけだし、好機とばかりに立ち上がった。
「…そうか」
ふ、と頼久の表情が緩む。
「――」
それにしばし見とれてしまうのは、どうしようもなく恋の欲目だ。
(はっ…いかんいかん)
照れくささを隠すように顔を伏せた天真の背後で、あかねたちはまたきゃーきゃー言っていた。
「やっぱ声も追加!いい声は必須よ!」
「顔も結構重要かもーっ!笑顔が素敵な人はイイ!」
「……」
顔に集まっていた熱も一気に霧散し、天真はやれやれと首を振った。

作品名:どうしようもなく。 作家名:秋月倫