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絶対安静

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薄汚れた天井を、すっかり見慣れてしまって代わり映えがしない。
 代わり映えのしない。首が固定されてるのでうまく動かせない。窓の外にはもくもくと入道雲が浮かんでいて、やかましいくらいに蝉がわめいている。冷房がきいてるので暑くも寒くもない。
 おれは、顔をしかめて天井を眺めていた。
 絶対安静。骨折やら筋肉が損傷したとか、とにかくいっぱいあって、ともかくも自分のからだが壊れてしまった。
 ――どうして?
 天井を眺めながら、かんがえる。
 ――どうして、こうなった?
 理由はたぶん、幽。
 おれのプリンを、幽が食べた、から。それだけだ。そりゃあだいすきなプリンで、一日にひとつしか食えねえ。「三時までは食べてはだめ」、と母さんから言われてた。三時に冷蔵庫を開けたら、「おれのぷりん」がどっこにもなくて、振り返ったら弟がプリンを食ってた。幽がプリンを食ったのにも、理由がある。前の日に、おれがあいつのプリンを食ったから。
 つまんない理由、だ。ほんとつまらねえ。たぶん、ありふれた兄弟げんか。
 なのにこんなことになったのは、ぜんぶ、おれのせい。
 あんときは、ぶちっとキレてしまったきり、がまんもなんもできなくて、ちょうど目の前にあった冷蔵庫を持ち上げてた。できるとかできないとかなんもかんがえられなくなる。どうしてかわからない。気がついたらこうだった。

 がらがら、と病室の扉をあけて、幽が黙ったまま部屋に入ってくる。幽はおれと違って無口で、おとなしい。ランドセルをテーブルの上に置いて、ちょこんと丸イスに座る。
 もし、冷蔵庫を投げるまえにおれのからだが壊れなかったら、今頃ここに寝てたのは幽かもしれない。幽の方が小さいから、もっと大きな怪我をしてたかもしれない。もしかしたら、死ぬことだって……。そう思うと、怖くって背中がぞわぞわと震えた。
「にいさん」
「なんだよ」
 幽は、おそらく病院の売店のものらしい袋を掲げてみせた。
「プリン」
 しばらくプリンなんて見たくないくらい。こんなもんが原因、だなんて。もしかしたら、幽をこわしてたかもしれない。
「いらねえよ。幽、お前食えよ」
 ふとんでもかぶってしまいたいけど、手は動かせない。だからふてくされたふりをして、天井をじいっと睨む。自分がなさけない。くるしい。
「にいさん」
「なんだよ」
「プリンたべて、ごめん」
作品名:絶対安静 作家名:松**