二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

はじまりは 驚愕と困惑と

INDEX|1ページ/5ページ|

次のページ
 
「頼忠さんって…手、冷たいですね」
転びそうになった花梨を抱きとめ、腕に掴まらせて体勢を立て直したところで、彼女の一言。
「…そうですか?」
そんなことはこれまで言われたこともなくて――というか、自分の体温を気にしたこともないので。
僅かに目を丸くした頼忠に、イサトがひょいと手をのばしてきた。
本日の神子殿の同行者は、花梨と同じように頼忠の手を掴むとうわ!と大声をあげた。
「何だコレ!頼忠、おまえ体温低すぎ!」
「そ、そうか?」
2人して言うのだから、そうなのだろう。
頼忠はしげしげと自分の腕を見下ろした。
「別に病気とかじゃないんですよね?」
花梨が心配そうに訊いてくるので、違うと思いますと返す。
「あまり意識したことはありませんが…元々の体質…なのでしょう、か…?」
「…オレに訊くなよ」
イサトも困ったような顔をした。
「まあでも、別にいつもと変わんないんだろ?だったらいいんじゃねぇの」
「そ、そっか。そうだよね」
ほっとしたのか、花梨がはにかむ。
「そういえば赤ちゃんとかって体温高いとか言うよね?低血圧とか、そういうことなのかな」
「てい…?よくわかんねぇけど、夏は便利そうだよな」
「え?う、うーん…でもそれはちょっと頼忠さんに悪いんじゃ…」
そんなことを話しながら、2人は再び歩き始める。
頼忠も後に続きつつ、もう一度自分の腕を見下ろした。

自分の体温が低い、とは、考えたことはなかったが。

「お帰りなさいませ、神子様!」
日も沈みかけ、館へと戻った3人はいつものように紫姫の出迎えを受ける。
だが、少女の隣りにもう1人、青年の姿を見つけて花梨が驚いた声を出した。
「ただいま、紫姫!と…勝真さん!どうかしたんですか?」
「お疲れさん。いや、別に何があったって訳じゃないんだがな」
勝真は困ったような顔をして笑うと、ちらりとイサトのほうを伺う。
「勝真殿は神子様がご無理をなさっているのではと心配していらしてくださったそうですわ。神子様、今日も遠くまでお出かけで疲れていらっしゃるのでは……?すみません、私が気が回らないばかりに……」
「えっ…そんなことないよ、紫姫!無理なんてしてないって、全然!」
しゅんとしてしまった紫姫に、花梨が慌ててぶんぶんと手を振ってみせる。
「だが、慣れない生活は疲労が溜まりやすいものだ。自分じゃ気付かないかもしれないが…早めに休んだほうがいいぞ」
まるで妹の心配でもするように、勝真が笑顔さえ浮かべて花梨を見る。

頼忠はその光景を見つめ、ぼんやりと考えた。
…あたたかそう。

糺の森で初めて顔を合わせたときからそう思っていた。
涼やかな朝の空気の中、葉が生い茂る下でも陽を集めたようなその髪に。
ふわふわと柔らかそうな、小鳥の羽毛を連想させるようなその、あたたかそうな髪に。

触れてみたい、…とか。

(…………。)
言ったら、気味悪がられそうである。
頼忠自身、たとえそれが気心の知れた同僚であったとしても、突然髪を触らせてくれなどと言われたら正直引く。
まして頼忠と勝真とは、

「…、何だよ。何か文句でもあるのか?」
じっと見ていたのが癪に障ったのか、勝真は先程の笑顔が嘘のように険の篭った目で頼忠を睨み付けている。
「…いや」
文句はないのでそう答えたら、余計悪かったらしくケッとそっぽを向かれてしまった。

――絶望的な程の仲の悪さを誇る間柄だ。(いや、誇っても仕方ないのだが)

まあ、そもそも花梨が現れるまでは面識もなく、八葉だと言われてもお互い院側帝側で敵対意識こそあれ、仲間意識など正直頼忠も実感がない。
何せ出会ったときから嫌悪感が丸見えで、頼忠と見れば眉が寄り、目を逸らすか嫌味を言うかのどちらかだ。
花梨や紫姫には優しい、のはまあ男として当然のこととしても。
もしかすると彼は自分と必要最低限の会話をもとう、という気さえないのではないか?
いや、別に彼と自分とで会話がそう必要であるとも思えないからそれはいいのかもしれない。
だが最低限「八葉」として花梨を助けるというのなら、それなりに波風立てない程度の礼儀が必要ではないのか。
何が気に食わないのか知らないが――いや、つまり院側の者は信用ならないということなのだろうが。
しかし帝側と言われる彰紋様はこちらが院側であっても気を遣って下さっているのがよく分かるし、頼忠も勝真が礼を欠かない限りは相応の態度で臨んでいるつもりだ。
元服もして久しい貴族の青年が、そんなことにも頭が回らないのだとは考えにくいが…。

そんなことを考えながら佇んでいると、視界の隅で勝真が身じろぎしたのがわかった。
どことなく不自然な様子が引っかかってそちらへ視線を流せば、勝真はイサトのほうを見やっているようだ。
花梨と紫姫と、明日のことについて話しているイサトを、ちらちらと伺っている。
「……」
イサトに用でもあるのか。
それならそうと切り出せばいいものを、まるでイサトの機嫌でも推し量るかのような勝真の様子に、頼忠は自分の腹の辺りがズシリと重くなったような気がした。
だいたい、イサトは院側だ。
京職が僧兵見習いに用があるとも思えないが――、いや、それは頼忠が推し量っていい範疇を越えているか。
実際に用があるふうなのだから、用があるのだろう。
それに京職が僧兵見習いに用があるということで気分を害しているわけではないのだし。
「……?」
気分を害している?
誰が?

(……私が?)

何に?

(……?)

こき、と首を傾げつつ手を握ったり開いたりしていると、花梨があ、と小さく声をあげた。
「そういえば勝真さん、ちょっと手を貸してください!」
「は?」
いきなり何だ、と呆けた顔をしている勝真の手を取ると、花梨はやっぱりだとうなずいた。
「私とイサトくんが高いのかもって思ったけど、やっぱり頼忠さんってすごく体温低いですね!」
紫姫の手も握ってみた後、花梨は頼忠の顔を見上げて世紀の大発見でもしたかのような顔をしてみせた。
「は…、そ、そうですか…?」
「何だよ花梨、またその話かよ」
イサトの呆れたような様子を見て、勝真が訝しげな顔をする。
「また?どういうことだ?」
同様にきょとんとしている紫姫に気付いて、花梨があのねと説明を始めた。
説明といっても、ただ道中に頼忠の手がすごく冷たいということに気付いた、というだけの話だが。
「まあ…頼忠殿、まさか体調が優れないのではないのですか…?」
今朝方の花梨のように心配そうな顔になる紫姫に、頼忠はそうではないと首を振った。
だが。
「低いってお前、そりゃちょっと大げさじゃないのか?いくら何でも…」
そう言って、勝真が頼忠に向かって手をのばして。
何の気なしに、その指先が頼忠の手の甲に触れて――

ピリリッ!、と。

神経に触るような痛みが、勝真の触れたところから全身に走りぬけた。
「!」
それは未知の感覚。
激痛ではないけれど、微弱な電流が走ったようなその感覚に頼忠は思わずその手を大きく振り払った。