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ある愛の詩

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「あー、いい舞台だった!やっぱヴェルディはこうでないとな」
ホールを出ながら満足げに笑みを浮かべた土浦を、月森は冷ややかに見やった。
「……そうだろうか。少し鬱々としすぎではなかっただろうか?」
「はぁ?あんなもんだろ、鬱々って……そりゃいくら何でも言いすぎじゃないか」
「いや、何だか押し付けがましくて共感できなかった。悲しみとはもっと繊細に表現されるべきものだと思う」
強い語気で言い切る月森に、土浦はムッとする。
「あれくらいじゃないと、人の心に響かないだろう」
「……過剰な演技はかえって白々しいと思うが」
不機嫌さがありありと浮かんだ主張に、月森の口調も刺々しくなった。
「…………」
土浦は腕を組み、眉を寄せて月森を見つめる。
「…………」
月森も腕を組み、一歩も退かず見つめ返した。

* * *

翌日の星奏学院普通科棟、2年2組教室。

「加地、これ頼まれてたやつ。昨日のオペラのパンフレット」
土浦から差し出された冊子を見て、加地はぱあっと顔を明るくした。
「うわ、ホントに僕の分まで買ってくれたんだ!ありがとう土浦、オペラはどうだった?」
「……どうもこうも」
忌々しげに舌打ちする土浦を見て、加地は驚く。
「え、あれ?あの劇団なら土浦の好みだと思ったけど……違ったかな」
「面白かったぜ、オペラはな!なのに月森のヤロー、表現がどうの解釈がどうのって、文句ばっかり言いやがって……!」
「あ、あー……月森と観に行ったのか……」
月森、という単語に、加地は全てを察した。
「あいつが一緒に出かけたいっていうから誘ったんだぜ、俺は!」
「うーん……確かに月森の好みとはちょっと合わないかなー……」
ぶつぶつと文句を言っている土浦に、加地は乾いた笑いを浮かべる。
「で、でもホラ、土浦も良くないよ。何も恋人とのデートに『リゴレット』なんて観に行かなくても……」
「そうだな」
急に割り込んできた声に、土浦はびくっと肩を震わせた。
「つ、月森!?何でここに……!」
「5組に行ったら、ここだろうと言われたんだ」
「……俺に用ってことか」
こくりと月森は頷き、リベンジをしに来た、と言った。
「昨日は演目が良くなかった。次の週末は空いているか?ヴァイオリンのコンサートがあるんだが」
「ヴァイオリン?……何をするって?」
「クライスラー」
「悪くないな」
頷いた土浦に、月森も頷く。
「では金曜の放課後……正門前でいいだろうか?」
「わかった」
真剣な表情で頷きあう様はどこか殺伐としていて、加地はそれを黙って見守りながら冷や汗を流した。
(なんか……デートの打ち合わせには見えないんだけどなぁ……)

* * *

「……君にヴァイオリンの何がわかるというんだ」
「ヴァイオリンについてはともかく、音色の良し悪しくらい俺にもわかる」
はあ、とため息をついた月森に、土浦はムッとして腕を組んだ。
「あれで完璧だなんて、お前こそ音楽科のエリートが聞いて呆れるぜ」
月森も眉を寄せ、腕を組んで言い返す。
「……君にそんなことを言われる筋合いはない。あのヴァイオリニストはピッチも正確で、非の打ち所はなかったと思うが?」
「正確であればいいってもんじゃないだろ。あんな機械みたいな演奏じゃ、人を感動させることはできないぜ」
「適当な演奏が人の心を動かすはずがない。正確に奏でることは音楽の基本だろう」
「基本ができるだけで、音楽をわかった気になってるってことだろ」
「…………」
月森は腕を組み、眉を寄せて土浦を見やる。
「…………」
土浦も腕を組み、一歩も退かず見返した。

* * *

月曜日の星奏学院普通科棟、2年2組教室。

「いっそ音楽から離れたらどうだ。お互いこだわりが強すぎるぜ」
「それについては同感だ。そのほうがよさそうだな」
作戦会議よろしく、2人は向かい合っている。
「……では、どこに行く?」
「……お互いショッピングってガラでもないしな。あー、スポーツセンターとか」
「俺がか?悪いが遠慮する」
「……それもそうだな……突き指でもされたらたまらないしな」
土浦は考え込むように口元に手を当て、視線を逸らした。
月森も顎に手を添え、考えながら口を開く。
「……なら海に行くというのはどうだ?」
「この寒いのにか?」
「別に泳がなくてもいいだろう」
「泳がないなら砂浜で1日何するんだよ」
「…………」
「…………」
それぞれに腕を組んだまま、しばらく見詰め合う。
「……フレンチのディナー」
「却下。それなら駅前のラーメン屋は?」
「あの喧騒の中での立ち食いは食べた気がしない。水族館はどうだ?」
「男2人で魚見て楽しいか?ならゲーセンのほうがマシだろ」
「どうして君はそう騒がしいところばかり好むんだ」
「お前は少し、俺が行くんだってこと考えろ」
「それはお互い様だろう」
「ならもっと現代の男子高校生らしくしろ」
「…………」
「…………」

もはや睨み合いの域に達した2人の様子を、遠巻きに眺めていた日野が首を傾げる。
「あの2人、何の勝負してるの?」
「うーん……勝負、ではないみたいなんだけどね」
加地は困り果てた笑みを浮かべた。

「……わかった。この手は使いたくなかったが……」
「あ?」
月森は制服の内ポケットに手を入れると、そこから白い封筒を取り出した。
「これなら、どうだ」
封筒から長方形の紙切れを抜き出すと、月森はびしっと土浦に突きつける。
「浜井美沙ピアノリサイタルS席×2」
「……!のった!!」
バッ、と2枚のうち1枚を光の速さで土浦が奪った。
「これなら君も文句はないだろう。俺も、母親の解釈にケチをつける気はない」
「確かに!うわ、これ人気殺到してすぐ完売したんだよな……!」
ぶるぶるとチケットを持つ手を震わせながら、土浦が感激したように言う。
こくり、と月森も頷いた。
「そうらしいな。なら今度の土曜日、駅前に17時でいいだろうか?」
「ああ、わかった」

* * *

「あら蓮、来てくれたの。土浦くんも、わざわざありがとう」
楽屋を訪ねるとにこやかな笑顔に迎えられて、土浦は緊張に背を強張らせた。
「いえ……素晴らしいコンサートでした」
隣りの月森が口を開いたのを見て、自分も何か言わなければと言葉を探す。
「あ、ええと……とても素敵でした。3曲目のモーツァルト、あまり聴きませんがいい曲ですね」
「ええ、知らない人のほうが多いだろうからどうかしら、と思ったんだけど。気に入ってもらえたなら嬉しいわ」
にこっと微笑まれて、思わず照れたように首の後ろに手をやった。
「…………」
それを、月森は横目で見やっている。
「土浦くんも今度我が家へいらしてちょうだい。祖母もピアノを弾いていたのだけれど、土浦くんのことを話したら是非会いたいと言っていて」
「きょ、恐縮です……!」
「…………」
「そうだわ、よかったらこの後、レストランにでもどう?ねえ蓮、明日はお休みなんでしょう」
「……ええまあ、学校はありませんが」
「なら、少しくらい遅くなっても平気かしら?土浦くん、どう?」
もちろん、土浦に異論などあるはずもなかった。

作品名:ある愛の詩 作家名:秋月倫