好きと言ったら死ぬ病
その上であのどこか青くさく甘やかな言葉を吐き出すなんてこと――できるはずが。
「お……おまえが先に言えよ」
「イギリスはずるいな。自分が言えないくせに、俺には言えだなんて」
ひどいことになっている顔を見られたくなくてそっぽを向くと、つられてさらに赤くなっていたアメリカが手首をつかんできた。
引き寄せられて、どっと胸に倒れ込む。頭にがつっと顎を乗せられ、痛かったけどこの体勢はいいなと思い、おとなしく従う。これで見られることはない。
どこからか、どきどきばくばくといった音が聞こえてくる。それも、ふたつ分。
張りのある胸板の左側に手の平を置いてみると、そこは激しい鼓動を刻んでいた。びっくりして離れようとする、そうはさせまいと伸びてきた手に上から押さえつけられて、存分に知らしめられる。
「や……、」
服を剥かれるよりも恥ずかしいことをされているような気になって、身をよじった。
腰に回ってきた腕はがっちりと俺をホールドしている。もがけばもがくほどに締めつけはひどくなり、混乱涙目でやめろと嘯きそうになったそのとき。
「……君なんかもっと思い知ればいいんだ、俺がどんな気持ちであの日泊まるって言ったのかを」
そう、アメリカがこぼした。
青が揺らめいていて、きれいで、俺はそればかりを見つめてしまう。
「今だってたかがハグくらいでどれほど緊張してるのかとか、……知らなかっただろ、俺、君に触れてるだけでいっつもこんなになっちゃうんだ」
どくどくと騒がしいわりに、その表情は穏やかだ。……赤くはあっても。
こいつこんなに隠すのうまかったっけ、と呆然とする。全然気づかなかった。キスもセックスも、そこに至るまでの流れはいつもスマートでスムーズだったから、なんでこいつこんな余裕なんだ、なんで慣れてやがんだ何人と寝てきたんだ、こっちはそんな嫉妬すらしていたのに。
いきなりこうした純情さをぶつけられても、うまい対応なんてできやしない。
(……やめてくれ、)
いやだこんなロマンチックな空気、およそ俺たちらしくないだろう?
すごく、照れる、どうしたらいいのか、ますますわからなくなる。
「大事なことだってもちろん言えるわけないよ。言ったら最後、俺きっと爆発して死んじゃうよ」
「ひえ、えっ」
唐突にぎゅううとしがみつかれて、弱々しい悲鳴が洩れる。
「……そんな俺とでも、君は付き合ってくれるか、い……っんむ?」
もういいもういい、恥ずかしすぎてこれには付き合っていられない。
初々しいようなことばかりを言う唇を、とうとうふさいだ。聞いちゃいられなくて。
アメリカは、もがもがと慌てている。めちゃくちゃに動揺してるみたいで、そういえば俺からしたことなかったなあと、今までに過ごした時間を振り返る。
(こんなことはできても)
どう思ってるかを言えもせず、そのくせ関係を続けてほしいとねだる無茶ぶりに眩暈がしそうだ。
でも、俺も。
「す……、すっ、ええなんで言えないんだ…」
どうしても聞きたくて、自分から言おうと頑張ってはみても、そこまでしか言えないのだった。
作品名:好きと言ったら死ぬ病 作家名:初音