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掌編『しあわせのカタチ』

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 彼らが眠ってしばらく過ぎた頃、がらがらと音を立てて玄関の扉が開かれた。
「たっだいま~。……あれ? 二人ともいないの?」
「ただいま帰った。……菊? 兄さん?」
 買い物に出掛けていたフェリシアーノとルートヴィッヒは、いつもならすぐに出迎えてくれる筈の菊が姿を見せないことに顔を見合わせて疑問符を浮かべる。
「どうしたんだろ。あ、俺ちょっと見てくるね」
 そう言うと靴を脱ぎ散らかしたまま、上がり框に足を掛けるフェリシアーノ。ルートヴィッヒが止める間もなく、床に荷物を置いた彼は家の中へと走っていった。
 仕方のないやつだ。溜息を吐きながらルートヴィッヒは散らかった靴を揃え、彼の置いていった荷物もまとめて台所へと運んだ。
「フェリシアーノ?」
 冷蔵庫に入れる必要があるものだけを先に片付けると、彼は家主と兄貴分、そしてフェリシアーノの姿を探した。
 その声が聞こえたのか、フェリシアーノが襖の向こうからひょっこりと顔を出す。
「お前、荷物を放置するとは何事だ!」
「へ? ルーイ、静かに静かに」
 しーっ、と口の前に指を立てて彼を手招くフェリシアーノに彼は青筋を立てる。
「お前が悪いのだろうっ……で、菊と兄さんはどうした」
 しかし、普段は賑やかなフェリシアーノが珍しく声を潜めている様子に、何とか怒鳴るのを耐えて尋ねる。
「こっちこっち」
 手招きをされて襖の向こうを覗いたルートヴィッヒは、目に入ったものに目を細めた。
「ああ、寝ているのか」
 そこにあったのは、寄り添い抱き締めあって眠る二人と一匹の姿。
 穏やかな光景に、二人の顔にも笑みが浮かぶ。
「すっごく幸せそうに寝てるね」
「そうだな」
 普段はなかなか見られない、年上の友人の無防備な姿と、子供のような兄貴分の姿。ルートヴィッヒはその姿に、ああ、幸せだなと感じた。
 自分は戦うために生まれてきた存在だ。そう豪語するギルベルトのこんな姿を、ルートヴィッヒは他では見たことがない。
 いつまで経ってもどこか遠慮がちで彼らに気を使う菊がこうして二人を放って眠るという事態も、ギルベルトと彼の深い繋がりを表しているようで嬉しくなる。
「あ、そうだ」
 何かを思いついたように声を上げ、フェリシアーノはふわりと笑ってルートヴィッヒの方を向いた。
「隊長!提案があるのであります」
「何だフェリシアーノ。言ってみろ」
 手を挙げるフェリシアーノに、ルートヴィッヒも大仰に返す。
 その行為に懐かしいあの頃の空気を感じ、二人とも少しくすぐったいものを感じた。
「えっと、あの二人はこのまま寝かせておいて、今日の夕飯は隊長と俺の二人で作るのがよいと思うのであります」
「そうだな」
 にこにこと告げるフェリシアーノと同じように笑って、ルートヴィッヒも同意の声を上げた。

「ではフェリシアーノ、食材の確認とメニューの検討に入る。付いてこい」
「了解であります!」
 二人と一匹を残して、フェリシアーノとルートヴィッヒは幸せな気持ちのまま台所へと向かった。