二頁
なんでそんな顔してんだ、と言えなかった。掻き消えた言葉を見失った。またしてもその顔を綺麗だと思ってしまったから。本当に訳が判らない。別に臨也が嫌いだから突き放そうとしている訳じゃなくて、友人としての距離感が心地良いと思っているからこその言葉だった。俺と臨也が恋人になるとか、想像出来ない。俺は知らないものが怖い、得体の知れない領域に自ら踏み込めるほど強くはない。
「シズちゃん……」
常に余裕ぶって優位に立とうと奮闘していた姿が消え失せている。そんな弱弱しい姿を見せられても俺は揺れる心を持ち合わせていない。だって俺は臨也の事、なんとも、
「俺は、」
「言うな」
思っていないのに。そんなこと。心の底から拒絶する。
「言うな……!」
お前を友人として応援している俺の気持ちも考えてくれ。
そう、言い訳して。
くしゃくしゃになった情けない顔、取り乱したように荒く呼吸をした俺は眼を見開き眉を下げた臨也に向かって、その面をぐにゃりと歪める。精一杯、笑ったつもりだったのに。
「臨也、お前はな、俺と一緒には生きられないんだ」
臨也の言葉を奪って、臨也の気持ちも考えずに俺はそう吐き出し、息を呑む臨也を放置して鞄を抱えて車から飛び出す。臨也の眼も、声も、何もかも届かない位置まで全力で走る。これで終わらせられたか、確かめようがないけど。何もかも嫌になった俺は携帯を取り出し、あいつからの着信やメールを全部見なかった事にして、未だ使われた事のない着信拒否機能を引き出した。使いたく、無かった。俺の指先によって呆気なく幕を閉じたはずなのに、舞台の役者たちはそこから頑なに降りようとはしなかった。
07好きじゃないし嫌いじゃない
(ならこの胸の痛みはなんなんだ)
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