鳥の歌
一、
青空の下、塀に敷き詰められた石と石の隙間にうまく足の先をおさめ、すぐに次に進み、手を伸ばして白壁の上の灰色の瓦をつかんだ。
もうかれこれ十回以上失敗している。
けれども、今度はようやく成功し、銀時は腕に力を入れ上半身を瓦の上へ出した。ここまでくると、あとは楽勝だ。瓦をまたいで座る。
塀の上はまるで夏蜜柑畑のようだ。活き活きとした濃い緑色の葉が枝にぎっしりと生い茂るなか、黄色味を帯びた明るい橙色の果実があちらこちらに顔をのぞかせている。
銀時は近くにある夏蜜柑をもぎとっていく。
突然。
「おい!」
塀の下から呼びかけられた。
一瞬びくっとして、せっかく収穫した夏蜜柑を落としそうになった。
銀時は下を見る。
「そこでなにをしているんだ!?」
見覚えのある顔が険しい表情をしていた。
銀時はほっとする。この家の者あるいは近所の者に見つかってしまったのかと思ったが、同じ塾で学ぶ自分と同い年ぐらいの少年だった。もっとも、少女と見間違えてしまいそうな顔立ちの少年だが。
名前は、……なんて言ったっけ。
そう思い、銀時は首を少し傾げる。
しかし、思い出せなかった。
思い出せないのも無理はない。銀時は他の生徒とはまったくと言っていいほど話をしたことがなかった。それに、講義中も部屋の隅で刀を抱えて寝ていることがほとんどで、松陽がだれをなんという名で呼んでいるのか聞いてなかった。
「なにしてるって、見りゃわかるだろ」
「夏蜜柑泥棒か」
「ああ、そーだ」