鳥の歌
良い生地を仕立てた高価そうなきものを着たお坊ちゃんに非難されたところで、痛くもかゆくもない。
「ああそうだ、ではないだろう! 今すぐそこから降りろ!」
塀の下では少年が騒いでいる。
「うるせー」
銀時はぼそっと呟いた。
そのとき。
「コラーっ、おまえたち、なにしてるんだッ」
大人の怒鳴り声が聞こえてきた。
驚いて、銀時はその声のほうを見る。
年配の男性が十字路を右折したばかりという様子で立っていた。
「やばっ」
銀時がおそれていた状況である。
じっとしているわけにはいかない。
速攻で夏蜜柑を袖のなかに入れる。
そして。
塀の上から飛び降りる。
地上に降り立つと、すぐそばには眼を見張っている少年がいた。
「おい、逃げるぞ!」
とっさにそう呼びかけるのと同時に、少年の腕をつかむ。
少年の腕を引っ張り、走り出す。
「コラ、待て、泥棒!」
うしろから男性の声が聞こえてきたが、もちろん銀時に待つ気などさらさらなかった。
塀の陰に隠れ、木戸が開け放たれた門のほうを見る。
すると、追いかけてきた男性は気づかず、銀時のひそむ塀の向こうの道を駆け抜けていった。
ついさっき、角を曲がったばかりのときに廃屋を発見し、まだ追っ手は角を曲がっていないはずだと思い、すかさず門からなかへ入った。
「……はー、疲れた」
ため息をつくと、銀時は塀に背中を預けて座る。
「なにが疲れただ。いい気なもんだな、他人を巻きぞえにしておいて」
銀時と同じように座っている少年が忌々しげに言った。
その雪を連想させる白い頬は今はうっすらと紅潮していて、肌には汗が浮かんでいる。
くっきりと二重の線の走る瞼、その下にある睫毛は長く、黒目がちな瞳には強い意志の力が宿っている。鼻筋は通っていて、口はやや小ぶりでそれが可愛らしい。