不眠のコーヒー
ベルナルドは会話を一度止め、落ちてきたコーヒーをカップに注いで先にルキーノへと差し出した。
「……気になることも多いがな。お前は、何かを知っているんだろう?」
カップを唇に当て、一口飲み干したルキーノの眼差しが、鋭く細く歪んだ。
ベルナルドはあえて気付かない振りをして、自分の分をカップに満たした。濃いコーヒーは、疲労した体に毒のように染み込んでいく。
一息漏らしてから視線を動かすと、すぐにルキーノのものとぶつかる。逃げるなよ、と言外に瞳が主張していた。
「知ってるんだろう?」
「何をだ?」
「とぼけるな」
「さあね、俺の口からはなんとも」
ルキーノは面白く無さそうに鼻を鳴らす。
「それは秘密がある、と言っているようなものだ」
「何も秘密とは言っていない」
一歩踏み込んでくるルキーノに、ベルナルドは相変わらずでかい男だと、飽きるほど抱いた感想を、再び心の中で繰り返した。だが、いかにルキーノの背負う雰囲気が高圧的であろうと、ベルナルドは屈する気など無い。
緩く笑むと、先にルキーノが折れた。
「信用されていないもんだな、俺も」
「敵を欺くには、まず味方からと言うだろう?」
ルキーノは納得していない様子だったが、コーヒーを飲むことに集中し、すぐにカップを空にした。
「もう出るのか?」
「ああ」
「何か言いたそうじゃないか」
「言わせないお前に、言われる筋合いは無いが、まあいい、美味かったぜ」
「明日もどうぞ、お待ちしております」
茶化した言葉に、ルキーノは笑う。
「そうさせてもらう。それから、とにかく休め。今、お前に倒れられては困る」
「わかっているさ。大丈夫。自分の力量は把握しているよ」
ルキーノは目を細め、そうか、とだけ頷き、隙の無い足取りで扉の前に立った。
「……ルキーノ?」
扉の前に立ったまま、ルキーノは動こうとしない。
どうしたのかと問うと、すぐになんでもないという答えが返ってくる。ルキーノらしくない、どこか拗ねた響きだった。
そう聞こえたのはベルナルド気のせいだったかもしれないが、この男にも随分可愛い部分があるのだと思うと、何故か嬉しかった。
「ルキーノ。言われなくてもわかっているだろうが、十分に気をつけろよ。何しろ墓を掘ることに熱心な連中だ。何かあれば、すぐに連絡を」
「わかっているさ」