二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

距離感

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 




「ごめ、和己……」
「あ? ああ……」
ため息交じりの河合が肩をすくめて足元の荷物を手にした。
「慎吾はなんにも悪くないさ。つーか、気ぃ遣わせてゴメンな」
「や、なんつーか……」
高瀬が出て行ったドアに視線をやり、島崎もため息をついた。
「もしかしなくても一緒に帰る約束とかしてた? 準太と」
「うーん、まぁ。な。慎吾も誘おうかって思ってたトコだったんだけど…」
一緒に帰る約束というのも男子生徒内でどうかと思う島崎だったが、高瀬が一年後輩だと思えば、約束が特別な意味を持つのも頷けた。
高瀬が捕手の河合を信頼しているのは周りから見ても一目瞭然だった。それは部活の先輩後輩の間では当然培われるだろう絆であるし、それでなくても二人はバッテリーだ。チームメイト全員がそう頷くだろう。
だが、察しのいい島崎は、もうひとつの「深い気持ち」のフラグに気付いていた。
高瀬が心に秘めているだろう思い。
それに河合が気付いているのかいないのか、島崎は把握していない。人の気持ちを読み揺さぶる捕手の本音はそう簡単には引き出せないからだ。
「慎吾、帰ろうか」
「二人でな。さみしーか?」
「おうよ、さみしーな」
ふざけた島崎の言葉をそのまま返し、河合は鍵を取り出してドアへ歩いていく。島崎を先に部屋から出し、照明を消して更衣室を後にした。
星の出る空を見上げ、息を吐きながら島崎が河合の名を呼ぶ。
「和己、あのさ……」
「? テストのことか?」
「いや、さっきの準太だけど」
ごまかすことも出来た。気付かない振りをして…。でも、島崎は知らず踏み入れ、結果その場の雰囲気を壊してしまった責任を感じていた。
「一緒にメシ食って帰ろうなって言ってたんだ」
「気を遣ったんだな、あいつ。別に寄り道して帰ったって勉強にそう響くってわけでもねえのに」
「まぁ、な。あいつらしくないっちゃないよな」
マイペースで物事にあまり動じない、実に投手向きな性格を高瀬はしている。先ほどのあれがその彼らしくない行動だと二人が二人とも思っていた。
でもそれは先輩後輩間の気の遣い方と言えなくもない。
「俺らが受験生だってコト、周りのほうが気にしてるのかもな。俺は2年だった頃の意識でいるからそのギャップなのかな」
「そういうもん、かもなぁ」
河合の言葉に同意しつつ島崎は心の中で懺悔した。
自分はなにも悪くないのは分かっているが、それでも高瀬の河合と一緒に下校するという楽しみを奪ったのは他でもない自分なのだ。
明日、缶ジュース一本ぐらいはおごってやろう。
そう思いながらちらりと河合の顔を盗み見る。
河合は、高瀬と帰られなくてがっかりはしていないのだろうか…? これは単に島崎の興味だ。
「どった? 慎吾」
視線に気付いて河合が首をかしげる。
「また、準太を誘ってやれよ。今度こそ、俺空気読むようにするからさ」
そういう島崎に河合が噴出す。
「あは、ホントお前いいやつだよなー」
「笑いながら言われても嬉しくねーよ」
河合に返しながら島崎はもう一度空を見上げた。

瞬く星を目に入れながら、無意識に星座を特定していくのは知識があるからだ。
視界に入るものすべてが興味の対象になっていく。
高瀬の河合への視線の意味も、信頼の情も、たまたま目に入ったからだ。
入ったから…、気付いてしまっただけのこと。
無視することが出来ない性分の己が性格を少しだけ呪いつつ、島崎は気持ちを振り切るように声を上げた。
「ラーメン食って帰ろうぜ、ラーメン」
「わかったわかった」
調子のいい島崎に頷き、河合が笑う。
意識の端に高瀬の帰り際の声がよぎった。ちくりと痛む胸を自覚しつつ、笑いながらそれを誤魔化す。
何か感づいているらしい島崎が、それでも何も言ってくれないことに河合は内心感謝していた。もちろん、態度には出さないが。
野球部キャプテンが特定の部員をひいきすることはあってはならないと思っているからだ。
たとえそれが大事なエースだとしても、だ。

歩く速度が自然と上がる。二人とも空腹だったのだから仕方がない。
雑談でつぶされる帰り道での会話に、それから高瀬のことが上ることはなかった。


作品名:距離感 作家名:みず