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風邪@ジュリオ訪問編

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徹夜明けに、椅子を立ち上がったら、そのまま目眩で床に倒れた。雲の上を歩いてみたら、足が突き抜けてしまった、という感覚だ。それくらい、ベルナルドに自覚は無かった。
 幸い部下が傍に居たおかげですぐに救出されたものの、絶対安静を言い渡され、ベルナルドはベッドに横たわりながら、熱に揺れる意識を浮上させた。
「いま、なんじ、だ」
 どれくらい時間が経ったのかもさっぱりだった。
 カーテン越しの光から察するに、昼を少し過ぎた頃だろう。
 頭が重い。喉も痛くて満足に喋ることが出来ない。自分としたことが、体調管理も出来ないようでは幹部筆頭の立場が無い。
 大分仕事に掛かりきりになっていたとはいえ、自分の力量を把握しきれていなかったことに、ベルナルドは熱い溜息を漏らした。
「仕事がこんなに楽しい、というのも困りものだな」
 無理をしてしまった理由は理解している。
「だが、久しぶりだな、こんなに熱を出したのも」
 風邪をこじらせてしまった事実を今更無くすことも出来ないので、ベルナルドは思考を切り替え、久しぶりにゆっくり出来る時間を満喫することにした。
 幸い、仕事はあらかた片付けてある。細かい部分は、部下や他の幹部がどうにでもするだろう。
「若い時のようにはいかないな」
 我ながらじじくさいなと思いながら、ベルナルドは聞こえてきた控えめなノック音にベッドサイドに置かれた眼鏡に手を伸ばした。
「誰だ?」
「……俺だ。入っても、構わないか?」
 ベルナルドは扉越しに聞こえてきた声に、驚いた。何か緊急の要件かと神経を尖らせたベルナルドは、眼鏡を身につけ、入るように促した。
 ゆらりと入ってきたのは、ジュリオだった。
「どうした、ああ、風邪がうつるかもしれないから、あまり近づかない方がいい。何か、あったのか?」
 問うと、表情の薄い能面のようだった顔は何か言いたげに揺らめいた。
「ジュリオ?どうした」
「いや、特に急ぎの用事、というわけではない」
「ならいいんだが。……ん?ではどうした?」
 ベルナルドは半身を起こし、枕に背を寄せた。目眩がしたが、寝たままで会話をするのも、良くないと思ったからだ。
 それにしても、近頃のジュリオは、表情が豊かになった。きっと、ジャンのお陰だな、とベルナルドは言葉にはせず、浅く笑った。
 ジュリオに留まらず、皆が影響を受け、組織が変わろうとしている。