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風邪@イヴァン訪問編

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ジュリオが去った後、目が冴えてしまったベルナルドは、急ぎではない仕事の書類をベッドで読んでいた。仕事をしていないと落ち着かないというのは、悪い傾向だと思うものの、なかなか改善出来るものでもない。
 その時、まるで仕事を妨害するように、叩きつけるようなごんごんというノック音が部屋に響いた。
 一体なんだ、という応対をする間も無く扉が開き、イヴァンが姿を現す。
「……イヴァン、少しはマナーを守ったらどうだ。ここは一応寝室だ」
 もぞもぞとベルナルドは体を起こした。
「ノックはしたじゃねえか、マス掻いてた訳でもねえだろ、女じゃねえんだからがたがた騒ぐな」
「お前なあ」
 怒る気力が起きず、ベルナルドは溜息を吐いた。
「お。美味そうなもんがあるじゃねえか」
 イヴァンはベルナルドの言う事など聞かず、ジュリオの土産の赤く丸々としたりんごを手に取り、もちろん許可も得ずかぶりついている。
「ああ、それはジュリオの土産だ」
 苦虫を噛んだ顔になるイヴァンの反応にひとまずベルナルドは満足し、書類をベッドサイドに移した。
「それで、お前も何か用事か?」
 風邪がうつるかもしれないという心配は、イヴァンに対してはしないことにした。言ったら怒るだろうと想像するだけに留める。なんとかは風邪を引かないと、昔から言うらしい。
「なんだ、食べないのか?」
「ジュリオの奴が持ってきたもんなんか食えるかよっ」
「美味いぞ。遠慮なく食え」
 途中でりんごを齧るのをやめてしまったイヴァンのふてくされた顔が可愛くて、ベルナルドは喉を鳴らして笑った。
 イヴァンはむすっとしたが、すぐにりんごに噛り付いた。美味いというのは認めたのだろう。
「食ってからでいいが、何か用事か?」
「ん?んなもん決まってるだろ、てめぇが働きすぎでぶっ倒れたって聞いたからな、見舞いだ」
 りんごの汁のついた手をシャツで乱暴に拭ったイヴァンは偉そうな顔で、脇に挟んでいたよれよれの大きな封筒を取り出した。
「……イヴァン」
 ジュリオに続き、イヴァンまで来てくれるとは驚いた。だが、イヴァンは案外律儀な男なのだ。ついついからかってしまうが、幹部の中ではもっとも常識が通じる、のかもしれない。
 まあ自分は除いてだが、と注釈をつけつつ、ベルナルドはひと回り近く年の違う同僚の顔を眺めた。
「っ、なんだよ、そんなに見るんじゃねえよっ」