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たった一つの大切な

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自分を犠牲に相手を護るのは人間だけだと思った。
何故なら自分は誇り高きレッドドラゴンだからだ。
でも、それは違うのだな…。


彼女にとっては心地良い風が吹く。
そこは地上から50メートル以上は離れた上空である。
彼女はその上空を普通ではありえない速さで飛んでいた。
自分の背には代償として言葉を失った殺人鬼もといカイムが乗っていた。
彼の口から言葉が発せられない代わりに脳内での言葉が返ってくる。
契約者とは面白い位都合が良く出来ているようだ。
契約した者同士は思考の共有が出来るのである。
つまりは考えた事を相手に伝える事が出来るのである。
それでも限定はされるのだが…。
故に彼の代弁は主に彼女が行っていた。
カイムもそれで助かっている。
前に彼女はそれを自主的に言い出した。
自分でも不思議だが、何故かやりたかったのだ。
彼を見ていて、そう思ったのである。
《大丈夫か?》
カイムの『声』が頭に響いた。
いつもは無表情で口煩い癖して、最近では彼女の状態を見透かした様に聞いてくる様になった。
思わずそれに彼女は嬉しくなって暖かくなる。
その感情がどういったのかなんとなく気付きつつ…。
そして彼には聞こえない様にこっそり思う。
(我も随分変わったな…。)
目指すのはまた戦場。
彼はまた殺戮を楽しむのだろう。
そして彼女もまたそれを手伝うのだ。
『契約』という理由で。
だが、こういった状態も悪くないと思っている。
契約を理由だけでなく、自分の本心で。
だから、彼女は選んだのだ。
彼を、カイムの為に、自分は犠牲になろうと、思った。
大きくなったマナを倒した後、彼女は言った。
「我を封印に使うがよい」
彼が大きく目を開いて驚くのが分かった。
声にならない声で彼は叫んだ。
《何故!?なんでお前がならなきゃいけない!》
カイムのその叫ぶ『声』が彼女の頭に響いた。
同時に彼女は嬉しさと、離れたくないと言う寂しさが湧く。
だが、そうしている内に世界が壊れる音がする。
もう、時間が無かった。
ヴェルドレが呪文を唱え始めた。
カイムはずっと彼女を抱きしめていた。
気付いたらカイムの目からは一筋の涙が零れていた。
「おぬしの……涙……初めてみる……な」
体に焼け付けられた呪文の痛みに苦しみながら彼女は言った。
嬉しかった。
自分の為に彼は泣いているから。
これで、彼の為に自分が犠牲になる事にもう悔いはなかった。
だから、
「アンヘル……それが我の名だ」
そう言うと、彼は彼女から目を背けた。
また一筋の涙が彼の頬を伝う。
「…人間に名のるのは最初で…最後だ」
その言葉を聞いた途端彼は顔を瞬時に上げた。
まるで「行くな」とでも言いたそうな、そんな顔で。
そして、彼女――アンヘルはそのまま封印となり、消えた。
後に残るはカイムとヴェルドレの二人と、彼女が救った世界だけだった。


作品名:たった一つの大切な 作家名:もったり