たった一つの大切な
暗く、辛い中で、アンヘルはただ一人いた。
自分を犠牲に救った一人の男の事をずっと考えながら。
しかし、いつの日か、封印の負荷が強くなり、彼女からカイムと言う存在が消滅し始めていた。
アンヘルは狂い始めていた。
ただひたすら届く自分の名を呼ぶ声だけが彼女を保っていた。
それがもう誰か分からなくなり始めていたが…。
ある時封印は解けた。
その時彼女にあったのは人間に対する憎しみだけだった。
大切な男の名を忘れ始める程、彼女は狂っていた。
だが、カイムは彼女の名前を呼び続けた。
ずっとずっと、彼女の名を。
自分の為に犠牲になった彼女の為に彼は世界を犠牲にした。
封印を解けば世界は崩壊する。
それでも、彼は彼女に逢いたかった。
狂った彼女は僅かながら正気となる。
そして彼女も彼を呼び続けた。
ずっとずっと、彼の名を。
再び巡り会った二人は、炎に包まれる。
〈もうよいのか、カイム〉
《ああ、行こう。共に…。》
アンヘルとカイムの二人は今度こそ、共に世界から消えた。