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イヴァンの来訪で嬉しかった部分もあるが、精神的に疲れてしまった部分もあり、ベルナルドは浅い眠りについていた。
　しばらくして不意に意識が浮上する。
　熱から来る気だるさと、普段眠らない時間の所為で体がベッドに沈みこむように重い。
　喉も渇いたし、口元も寂しかった。
　ベルナルドは無意識に乾いた自分の唇を舐めた。
　サイドに置いていたりんごは先ほどイヴァンにやってしまったし、何か飲み物を部下に持ってこさせようかと混濁する意識の中で考えていたベルナルドは、三人目の来訪者のノックを聞いた。
「……誰だ」
　問いかけたが、このノック音の主は、返事を聞かなくてもわかる。
「入って構わないか？」
　声に心配が滲んでいて、ベルナルドはすぐに起き上がろうとしたが、根を張ったように体がいうことをきかない。
「ああ、ルキーノ、構わないが、あまりもてなせないぞ」
　了解を得るなり相変わらず堂々とした足取りで寝室に踏み入ってきたルキーノは、まず最初に溜息を漏らした。
「何か、急用か、ルキーノ」
「つれないこと言うなよ。ああ、起きなくていい、そのままでいろ。酷い顔をしているぞ」
「だろうな」
「薬は飲んでいるのか？」
「きちんと定時に飲んでいるさ」
　椅子を引いてベッドの傍に腰を下ろしたルキーノは、目敏くサイドテーブルに置かれた書類の束に気付いて、二度目の溜息を漏らした。
「今は仕事のことは忘れろ」
「そういうわけにも、いかないさ」
「お前の仕事中毒には呆れるぜ」
「そういうな。仕事が、恋人なのさ、さみしい三十路、だからな」
　冗談も奮わず、ベルナルドは熱い息を吐いた。
「ベルナルド」
「……ん、なんだ？」
「これはお前の趣味か？」
　ルキーノの持ち上げたものに、ベルナルドの頭は更に痛んだ。
　書類の下に置いておいた、イヴァンからの差し入れだ。
「……違う、それは、イヴァンが」
「へえ」
「勘違いするなよ」
　ルキーノは納得してくれたのかそうでないのかわかりにくい曖昧な笑みで笑った。
「あいつらしい。にしても、イヴァンが来ていたのか？」
「ジュリオもだ。見舞いだとさ。ちょっと昔なら、考えられないことだ。おじさんは嬉しいよ」
「先を若い連中に越されるとはな」
　ルキーノは少し不機嫌そうに、相変わらず仕立ての良いスーツの胸ポケットへ長い指を向けた。
「まさか、お前も俺の見舞いに来たのか？」