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風邪@ルキーノ訪問編

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「なんだ、そのまさかっていうのは」
「いや、明日は雨かと思ってな」
「相変わらず酷いな」
 本当に、今日は空から槍でも降るのかもしれない。
「皆、お前には感謝しているのさ。好き勝手出来るのも、お前が上でいろーんなことを締めておいてくれるおかげさ」
「なら、もう少し、普段から俺のことを労わってほしいものだよ」
「そういうな。で、俺からの手土産だ」
 そう言ってルキーノはするりとマジックのような指使いで、煙草のケースを一つ取り出して見せた。
「酒と迷ったんだが」
「はは、丁度口寂しいと思っていたところだ」
「病人には良くないとは思うから、一本だけ、な」
「了解だ。感謝するよ」
「もっとしてくれていいぜ」
 ルキーノは煙草を一本取り出すと、のろのろと起き上がろうとするベルナルドの背を支えた。
「熱いな」
「ああ、触らないほうがいい。うつるぞ」
「気にしないでいい。それより、口開けろ」
 とん、と唇に煙草を挟まれ、ベルナルドは反論を封じ込まれてしまった。慣れた手つきで煙草の先へ火を灯すルキーノの姿に思わず視線を奪われてしまったことに、若干の迷いを覚えたが、今は頭が働きそうもなかった。
 一度椅子を立ち上がったルキーノが窓を開くと、涼しい夕方の風が舞い込んでくる。
「美味いな」
「そりゃよかった。ああ、俺も一本貰うかな」
 振り返ったルキーノは煙草を咥えるなり、ぎしりとベッドへ腰を下ろした。重みにスプリングが軋む。
 のんびり煙を楽しんでいたベルナルドは思わず瞬いた。
「火ぃくれ」
 顔が近づき、至近距離で視線が絡む。
 何を望んでいるかくらい、わかる。
 ベルナルドはルキーノの瞳を見つめてから、そっと瞼を伏せた。咥えた煙草に押し当てられるものがあり、火を分け与える。
「ん……」
 気配が離れていくと同時に、ベルナルドは目を開いた。
「grazie」
「どういたしまして」
 しばらく二人で苦味を楽しみ、ベルナルドは指に煙草を挟んだ。
「情けない姿を見せてすまないな」
「今は休んでいろ。俺達を信用していればいい」
「しているさ。これも性分なんだよ」
「全快したら持て成してやるから、今は大人しくしていてくれ」
「お前の店でか?美女に囲まれての酒も久しいからな」
 ルキーノはベルナルドの微妙な声のトーンを嗅ぎ取り、喉をくつくつと鳴らして笑った。
「あまり嬉しそうじゃないな」