二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

14才の母シリーズ(カズケンカズ/サマウォ)

INDEX|4ページ/11ページ|

次のページ前のページ
 

ゆびきりなんていらないから


震える小さな身体を抱きしめた時に抱いた感情を端的に表すなら「喜び」だったのだと健二は思う。

2月も終わろうというのにその日はとても寒い日で、ちらちらと雪すら舞っていた。ダッフルコートにマフラー姿の佳主馬の頬は寒さであからんでいて、健二は遠く離れた名古屋にいるはずの佳主馬が東京にいることへの疑問を抱くよりも先に、思わず「こんな寒い日に外で待ってるなんて何考えてるの」と怒ってしまったくらいだった。
健二の住むマンションのエントランス前に座り込んでいた佳主馬は健二の姿を認めると、嬉しさと困惑を綯い交ぜにした複雑な表情でじっと健二を見つめて、それから「久しぶり、お兄さん」と笑った。常に少女が見せる泰然とした笑みではなく、それは無理矢理の作ったようなぎこちない笑みだった。
いるはずのない少女の姿に、健二がぽかんと口を開けて「佳主馬くん?」と呟けば、固い表情の少女はこくりと頷いて立ちあがった。少しだけ伸びたらしい黒髪が北風に揺れる。
ありえない状況にしばし思考を飛ばしていた健二だが、「久しぶり」という佳主馬の声に我に返ると、所在なさ気に佇む佳主馬に慌てて走り寄り、手袋もはめずに外気に晒されていたその手をとった。キング・カズマを操る魔法の手は冷たく悴んで、温度を失くしていた。その手の冷たさに健二は思わず気色ばむ。
けれど、いったい何時からそこにいたのか、とか、なんで手袋をはめていないのか、とか怒りたいことは山ほどあったけれど、健二が佳主馬の手をとった瞬間、佳主馬が泣きそうに笑ったものだから、何も言えなくなって健二は佳主馬の手をとってマンションのエントランスホームに引きずり込んだ。
おにいさん、とか、ちょっと待って、とか佳主馬が必死に抵抗していたけれど、それをすべて無視してマンションのエントランスルームを抜けエレベーターへ向かい、普段なら絶対やらないような乱暴さでエレベーターのボタンを押した。その健二の権幕に押されたのか、佳主馬は俯いたまま黙り込んで視線を足元に彷徨わせている。
「耳も赤くなってる」
「……ごめんなさい」
「何時からあそこにいたの」
問いかけた瞬間、少女の方がびくりと揺れたのを健二は見逃さなかった。口調がきつくなるのを自覚しながらも、どうしても抑えきれず、健二は少しだけ途方に暮れる。問い詰めているわけではないのだ。確かに自分は怒っているけど、たぶん少女が思っているようなことに対しては怒っていないということを説明するのはむずかしく、どうやったらうまく伝えられるのだろうと健二は自分の口下手さを呪った。国語は小学校時代から苦手だ。人に、自分の気持ちをうまく伝えるのも。
「ごめん、怒っているよね」
「怒ってるけど、それは佳主馬くんが考えてるようなことに対してじゃないよ」
「……なにそれ」
健二のいっていることがわからないとでもいうように、佳主馬が少しだけ眉根を寄せて首を傾げる。
「怒ってるのは、佳主馬くんがこんな寒い日にそんな薄着で外にいたこと」
「コートもマフラーもあるのに、」
「でも、手がこんなに冷たくなってる」
ほとんど意味はなさないとわかっていながらも、冷え切った佳主馬の手をとって健二は自分のはめていた手袋を佳主馬にはめさせた。健二の体温の残る手袋のあたたかさに、ずっと険しい表情をしていた佳主馬の表情が少しだけ緩む。早く暖房の入る部屋に佳主馬を連れていってあたためたいのに、何時もなら1階で待機しているはずのエレベーターはこんな日に限って降りてこない。
エレベーターが下りてくるのを二人手をつないで待ちながら、健二は佳主馬に尋ねた。
「急にどうしたの」
「……合格祝い、いいたくて」
「嘘吐き」
うそつき、と告げると同時にぽーんと電子音がしてエレベーターの扉が開く。小さな子供を連れた母親が会釈をして通り過ぎていくのを見送って、健二は立ち竦む佳主馬をエレベーターの中に引き摺りこんだ。一瞬だけ抵抗されるような素振りを見せたことに健二は疑問を抱いたけれど、それよりも、健二を見上げた佳主馬の、傷つけられたような泣きそうな顔の方が健二にはよくわからなかった。
「ごめんなさい」
「なんで謝るの。怒ってるけど、怒っていないって」
「そうじゃなくて、でも、ごめんなさい」
「佳主馬くん?」
「ごめんなさい」
俯いたまま健二の手を握りしめ、ごめんなさいを繰り返す少女に首を傾げながら、健二は目的階のボタンを押した。エレベーターの扉が閉まると同時に抱きついてきた身体は小さくて、やっぱりとても冷たかった。