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03:見誤ったオージェ効果

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翌日、不機嫌顔のグリーンを教室で見つけた。

 相変わらず友達とワイワイ仲良くやっているように見えたけれど、ふっと時折眉間に皺を寄せている。それに友達は気付いていないのか、誰も突っ込む者がいない。
 何で誰も気づけないし、気を掛けてやれないんだ。イライラしながらも彼らの様子にどうしても意識が行ってしまう。全く交流をしていない集団にここまで苛立たされるとは思わなかった。全く、俺もどうしようもない。

 今日は図書館で借りた本の返却日だから、昼休みに教室を抜け出した。だいぶ来る頻度が減ったせいかい、図書室の司書さんと顔を合わせる回数も減った。
 けれどいつも通りに俺に声を掛けてくれるから、何も深い所を聞いて来ないその姿勢に救われる。

 さて、本の返却が済めば次に借りたい本を探す。さっさと本を選出し、貸し出しカードの手続きをして図書館を後にする。まだ昼休みが終わるまでに時間がある。図書室に残って本を読んでも良かったけれど、何だかグリーンの様子が気になって早く教室に戻りたかった。

 かといって、俺は何もすることは出来ないけれど。

 何だか自分がストーカーのようで嫌になって、ちょっと頭が痛くなる。
 だが気になるから仕方ない。何も話かけなければ問題は起こらない。大丈夫だ。言い聞かせてぐっと唾を飲み込み足を進める。どこかで、胸が痛いことだって分かっていた。どうしようもないから仕方がないけれど。本当は声を掛けたい。何かあったのか、と。ダメだ。そんなことしてもおそらくグリーンからすればお世話様。
 余計なことはしない。そう決めたではないか。
 黒い暗い靄が視界を覆い始めて━━━けれど、意外な人物にそれは遮られる。
 階段の踊り場に辿り着こうとした時、猛烈な勢いで階段を駆け上がってきた者がいた。
 慌てて避ければ、それは━━━グリーンで。
 瞠目して、思わず凝視した俺の瞳と、同じように驚いたようなグリーンの瞳がかち合う。あの下駄箱での会話以来の衝突だった。

 「ぁっ━━━━」
 「━━━━っ、ちょっと来てくれ」

 何だか焦ったような声の対象が誰なのか、一瞬分からなかった。
 けれど、ガシッと掴まれた自分の腕を見て心臓が跳ね上がる。
 そのまま勢い良く引っ張られると、グリーンの駆け上がるのに合わせて俺も階段を上ることになった。抱えた本が落ちないかなんて、心配する余裕もなかった。奇跡的にそれらは上手く俺から離れないで着いてきてくれた。
 駆け上がった先にあったのは屋上への扉だったが、鍵が掛っていると思っていた俺はグリーンが止まると思ったのに、その予想に反して彼は乱暴にノブを回して扉を開けてしまった。ギョッとする。軽やかに踏み出した足の先には無機質なコンクリート。

 初めて上りつめた学校のてっぺんは、清々しい快晴。




 「ぁっ、悪ぃ」

 俺の腕を離してバツの悪そうな顔をしたグリーンは頭を抱えて座り込む。ちょっと息を切らしつつ、俺も力なく座り込んだ。状況がさっぱり分からない。
 授業開始まで後少しあるけれど、それほど悠長にしていられる時間はない。日常なら気にするそんなこと、今となってはどうでも良かった。どうしよう、グリーンと二人きりになってしまった。心臓は相変わらず早鐘のように鳴り響く。視界がクラクラして、喉が詰まった。何も声を掛けられない。

 「あそこにお前がいるなんて思わなかったんだ……すまん」

 本当にすまなさそうに謝るグリーンにも、何も反応し返せなかった。目が泳ぐ。どうすればいいどうすればいい。言葉を口にしようとも舌が震えてどうにもならない。
 えぇい、全く役立たずだ。

 「なぁ、お前顔色悪ぃぞ、大丈夫か?」
 「へっ!? あっ、いや、っ違う。……ごめん」
 「何でお前が謝んだよ。謝るのは俺の方だ」
 「あ、……ごめん」
 「━━━ぷ」

 あっはははは!と笑い声が屋上に波紋する。
 目の前で腹を抱えるグリーンに、ぽかんっとした表情しか浮かべられなかった。
 何がそんなにおかしいのだろうか。

 「あーぁ、何だか馬鹿らしくなってきた。さんきゅ、レッド」

 なっ、名前。
 まさか不意打ちでそれを呼ばれるとは思っていなかった。かぁあと頬に熱が籠る。それがグリーンにバレないか冷や冷やしつつ、ちょっと腕で顔を隠した。

 「な、にが、……馬鹿らしいの?」
 「え? あぁ、いやな、ちょっといろいろあったんだ」
 「いろいろ?」
 「そっ。なんかもうむしゃくしゃしただけ。クラスでいつもツルでる奴らに相談しようにも、ちょっとしにくい内容でね」

 ガシガシ頭を掻いて溜め息を一つ。本当にグリーンも何やら思い悩んでいるようだ。普段の彼からは少し想像がし難いけれど。

 「レッド、お前俺に何かあったって分かってたろ。すっげ気にしてる目で見てたもんな」
 「え゛」

 まさかの発言。
 よもや、気づかれていたとは思われず、蛙が潰れたような声が出てしまった。どうやら、グリーンからするとそれは否定の声だと思ったようで。

 「何だ無意識かよ。すっげえ感じてたんだけどな」
 「そっ、そんなつもりじゃ……ない、こともなかったけど」

 そのまま肯定しておけば良かったのに、馬鹿か俺は。

 「やっぱりな。周りの奴、全っ然分かってくんねぇんだもん。そりゃ言わない俺も悪いけど、気づいて欲しい時ってのもあるんだ。嫌んなるな、矛盾してるし。でも友達ってさ、こういう時に何でも話せて頼れる奴が本物なんだろうけど、あいつらはちょっと違うみてぇだわ。それならよっぽどレッドのが話しやすい。そういやぁ最後にまともに喋ったのっていつだっけ? 結構前か」
 「うん、下駄箱で」
 「あ、そうそう。━━━あんましワイワイ喋んの好きじゃなさそうだから、あれから声掛けないようにしてたんだ。つーか、どっちかってーと俺みたいなタイプは苦手っつーか嫌い?と思ってさ。喋ってても嬉しくなさそうにしてたし。あっ、それ言ったら今の状況ももしかして嫌なのか」
 「違う! そんなことないから! いや、でも……教室じゃちょっと、話しにくい、けど……」
 「だよな。こうやって二人で語る方が雰囲気的にレッドらしい気がする」

 苦笑しながら顔を向けてくるグリーン。
 何だかもうこの状況が信じられない。ただ顔の赤さだけに気づかれないようにだけ願い続ける。グリーンの言葉も右から左へ流れて行きそうで、でも慌てて内容を留めようと努力する。
 しっかりしろ、俺。
 だが俺を混乱という谷底へ落とすかのように、グリーンは理解し難いことを口にし続ける。

 「そういやぁレッド、お前のメルアド教えてくれよ」
 「……━━━━ぇ」
 「知ってて損はねぇだろ、このご時世」
 「いや、おっ、俺、携帯、持ってない」
 「え!? ……ぁ、そっか、そりゃ悪かった」
 「う、ん。だから、ごめん……」
 「だから、謝んなって。お前は何も悪くねぇだろ」

 軽く肩を叩かれて、ちょっと前につんのめり掛けた。背中に冷や汗が吹き出して制服のカッターシャツを濡らした。意味が分からない。
作品名:03:見誤ったオージェ効果 作家名:Cloe