きっと来年も
「アンタまた! ちゃんとこっち見て下さいよ!」
そう。また、だ。
何気ない瞬間や、会話の中のふとした間、そんな時、この人はよく、遠くを見る。
雲だとか鳥だとか、遠くに何か気になるようなものがある、というわけでもないようで、もうどこにもないものを探すみたいな、そんな目線。
これは今に始まったことでもなくて、俺達がミネルバにいた頃からのこと。
ひとしきり俺に、ひどく分かりにくい説教したと思ったら、視線も意識もどこかにいっちゃってる、そんなアスランさんが嫌だった。
密度はともかく、それなりにたくさんの時間を共有して気づいたことは、俺がアスランさんを好きだということ。
嫌だったのは、こんなに近くに、目の前にいるのに、俺を見てくれていないと思ったから。
「人と話すときは、相手の顔を見るのが礼儀ってもんじゃないんですか」
思い出せば、これは可愛げがないと言われてもしょうがないと思うけど、その時の俺にはこうとしか言えなかったのだから仕方ない。
「あ……ああ、済まない」
「人に説教するんなら、そのくらいちゃんとしてくださいよ」
「まったく、返す言葉もないな」
そう言ったアスランさんの笑顔はちょっと苦かったけど、それでも、きれいだと思ったのも本当のこと。
アスランさんが好き。
それを自覚してからは、正直、かなりきつかった。
俺の性格はこんなだし、アスランさんも大概抜けてるし、アスランさん狙いは多いし、つーかそもそも同性だし。
勢いだけで押し切った、と言われても仕方ないと思う。
告白も、まあなんというかひどかった。思えば俺も若かった。
「アスランさん! 好きです!」
「突然なんなんだ。そして何がだ」
「アスランさんがです!」
「誰がだ」
「俺がです!」
「…………は?」
「俺が、アスランさんを、好きなんです!」
「そ、それは……分かったけど、じゃあ俺にどうしろって言うんだ!」
最初は呆れたような顔をしていたアスランさんの表情が、どんどん驚きに塗り替えられていく。
見たことのない表情も垣間見えて、俺の心臓がバクバク言う音がうるさくて、それをかき消すような大声で叫んでいた。
「お……俺と付き合えコノヤローーーーーー!」
場所は甲板だし、当時は婚約破棄のことなんて知らなかったし、同性だし、とかとか、そんな大小の問題も頭からすっ飛んでた。
とにかく自分の中に溜まりきってしまった熱のまま、多分いろんな理由で真っ赤になってるアスランさんを、(多分)睨みつけるように見つめ直して、アンタはどうなんだ、と。
「え、あ、うん……ええと……ありがとう?」
「それは、オッケーって事でいいんですか! いいんですね!」
「ああ……そう、なるのかな……」
とにかく嬉しくて嬉しくて、勢いでキスしかけたら割と本気で殴られて、止められた。
いまやビンタやグーパンの一度や二度で退く俺じゃないけど。
そんなこんなで、ちょっとだけ、アスランさんの「特別」になれた。と思っていた。
「ねえ、アスランさんってしょっちゅうどっか遠くの方見てるけど、何でですか?」
一度訊いてみたことがある。
これは成功だったし、失敗でもあった。
「そうだったか? ……そうだな、そうかも知れないな」
「自己完結してないで、ちゃんと答えてくださいよ」
「昔のことを、思い出していたんだ。」
俺はアスランさんのことを、全然知らなかったんだなと改めて思い知らされた。
出会ってからの時間なんて、出会うまでの時間に比べればほんのちょっとなんだって言うことを忘れていた。
「……いつかでいいんで、俺にも教えてくださいよ、昔のこと。俺、アンタのことなんにも知らないから……」
「条件がある」
思いがけない流れに、じっとアスランさんの顔を見つめると、ふっと微笑んで。
「お前の話も、聴かせてくれ」
「は……はいっ! いくらでも聞かせてあげますよ!」
そうして聴かせてもらったたくさんの事、聴かせてあげたたくさんの事。
思い出して、怒ったり泣いたり笑ったりして、また少し、近くに行けたんじゃないか、なんて思いもした。
そう。また、だ。
何気ない瞬間や、会話の中のふとした間、そんな時、この人はよく、遠くを見る。
雲だとか鳥だとか、遠くに何か気になるようなものがある、というわけでもないようで、もうどこにもないものを探すみたいな、そんな目線。
これは今に始まったことでもなくて、俺達がミネルバにいた頃からのこと。
ひとしきり俺に、ひどく分かりにくい説教したと思ったら、視線も意識もどこかにいっちゃってる、そんなアスランさんが嫌だった。
密度はともかく、それなりにたくさんの時間を共有して気づいたことは、俺がアスランさんを好きだということ。
嫌だったのは、こんなに近くに、目の前にいるのに、俺を見てくれていないと思ったから。
「人と話すときは、相手の顔を見るのが礼儀ってもんじゃないんですか」
思い出せば、これは可愛げがないと言われてもしょうがないと思うけど、その時の俺にはこうとしか言えなかったのだから仕方ない。
「あ……ああ、済まない」
「人に説教するんなら、そのくらいちゃんとしてくださいよ」
「まったく、返す言葉もないな」
そう言ったアスランさんの笑顔はちょっと苦かったけど、それでも、きれいだと思ったのも本当のこと。
アスランさんが好き。
それを自覚してからは、正直、かなりきつかった。
俺の性格はこんなだし、アスランさんも大概抜けてるし、アスランさん狙いは多いし、つーかそもそも同性だし。
勢いだけで押し切った、と言われても仕方ないと思う。
告白も、まあなんというかひどかった。思えば俺も若かった。
「アスランさん! 好きです!」
「突然なんなんだ。そして何がだ」
「アスランさんがです!」
「誰がだ」
「俺がです!」
「…………は?」
「俺が、アスランさんを、好きなんです!」
「そ、それは……分かったけど、じゃあ俺にどうしろって言うんだ!」
最初は呆れたような顔をしていたアスランさんの表情が、どんどん驚きに塗り替えられていく。
見たことのない表情も垣間見えて、俺の心臓がバクバク言う音がうるさくて、それをかき消すような大声で叫んでいた。
「お……俺と付き合えコノヤローーーーーー!」
場所は甲板だし、当時は婚約破棄のことなんて知らなかったし、同性だし、とかとか、そんな大小の問題も頭からすっ飛んでた。
とにかく自分の中に溜まりきってしまった熱のまま、多分いろんな理由で真っ赤になってるアスランさんを、(多分)睨みつけるように見つめ直して、アンタはどうなんだ、と。
「え、あ、うん……ええと……ありがとう?」
「それは、オッケーって事でいいんですか! いいんですね!」
「ああ……そう、なるのかな……」
とにかく嬉しくて嬉しくて、勢いでキスしかけたら割と本気で殴られて、止められた。
いまやビンタやグーパンの一度や二度で退く俺じゃないけど。
そんなこんなで、ちょっとだけ、アスランさんの「特別」になれた。と思っていた。
「ねえ、アスランさんってしょっちゅうどっか遠くの方見てるけど、何でですか?」
一度訊いてみたことがある。
これは成功だったし、失敗でもあった。
「そうだったか? ……そうだな、そうかも知れないな」
「自己完結してないで、ちゃんと答えてくださいよ」
「昔のことを、思い出していたんだ。」
俺はアスランさんのことを、全然知らなかったんだなと改めて思い知らされた。
出会ってからの時間なんて、出会うまでの時間に比べればほんのちょっとなんだって言うことを忘れていた。
「……いつかでいいんで、俺にも教えてくださいよ、昔のこと。俺、アンタのことなんにも知らないから……」
「条件がある」
思いがけない流れに、じっとアスランさんの顔を見つめると、ふっと微笑んで。
「お前の話も、聴かせてくれ」
「は……はいっ! いくらでも聞かせてあげますよ!」
そうして聴かせてもらったたくさんの事、聴かせてあげたたくさんの事。
思い出して、怒ったり泣いたり笑ったりして、また少し、近くに行けたんじゃないか、なんて思いもした。