きっと来年も
「戦争」が終る頃のことは、正直思い出したくないこともたくさんある。
自分が心底好きだと思った人を殺した、なんて、思い出したがる方がおかしいんじゃないかとさえ思う。
それでも好きなんだ、と言った俺を許してくれるアスランさんも、すごいというかずれてるというか、ちょっと変な人だと思う。
その変な人が好きなのは俺だし、好きな人に好いてもらえるのはやっぱり嬉しい。好きな人が、同じように思っていてくれたら、もっと嬉しい。
俺達の関係は、酷い別れ方をしたと見せかけて、その実ちゃっかりしっかりばっちり続いてたわけだ。
でも、最近また引っかかることが出てきた。
アスランさんの、遠くを見る癖。
「……ねえ、アンタ最近またどっか遠くの方見てるけど、なんで?」
「そうだったか? ……そうだな、そうかも知れないな」
「自己完結してないで、ちゃんと答えてくださいよ」
いつかと似たやりとり。
だけど、あの時からはずいぶん時間が立っている。
過去や、大切な人たちが大事なのは、俺にだってよくわかってる。
それらと俺と、どっちが大事かなんて、到底比べられるものじゃないことも。
それでも、一緒にいるときだけでも、俺のことだけ考えててくれないかな、なんて子どもじみたわがままな気持ちだってあるわけで。
そんなことを考えながら眺めていたアスランさんの横顔がすっと動く。
「昔のこと……初めて会った頃のお前を思い出してたんだ」
「……俺の、こと?」
「お前ももう22かと思ってな。あの頃は16だろう?」
「そうですけど……」
「そうなんだよな、もう22なんだよな……」
言いながら頭に伸びてくる手は、果たして俺を22と思っているのかいないのか。
「そうですよ。もう子どもじゃないんですから」
「ああ、そうだな」
ちょっとむくれてみるものの、髪からじんわりと伝わってくる体温は気持ちよくて、引き剥がすのももったいない。
ぽん、とひとつ軽く叩いて離れた手を捕まえて、甲に軽くキスをする。
くすぐったそうに笑うアスランさんに、俺も笑ってしまう。
「それと、来年の今日は、お前がどんなふうになってるんだろうと思ってな」
「多分、そんなに変わりませんよ。身長だって止まっちゃったし」
「俺はお前に抜かれるなんて思ってなかったんだけどな」
「なにそれひっでぇ!俺は抜く気満々だったっての!」
またくすくすと笑うアスランさんの表情は、前よりずっと明るくなった。気がする。
「来年も、一緒にいられたらいいな」
「いいな、じゃなくて、いるんですよ。何いってるんですか」
「お前が言うと、本当にそうなりそうな気がするな」
「あんたが本当にしてくれるんでしょ?」
「俺だけじゃどうにもならないだろうが」
珍しくアスランさんから頬にキスをして、そのまま耳元で最高のプレゼントをくれた。
「……誕生日、おめでとう。お前がいてくれて、本当に、よかった」
ご馳走とかケーキとかお約束のハロとか、いろんなものが準備されてるのは分かってる。
それでもやっぱり、好きな人に存在を祝ってもらえる言葉が何より嬉しくて、プレゼントはアンタが一番。
そんな気持ちで、ぎゅうっとアスランさんを抱きしめた。
来年も、きっとこうしていられますように。