Letter for me
「あ・・・・・」
ギルベルトは、久々にちゃんと掃除をしようと思って書斎のデスクを引っ張り出してみると、黄ばみはじめた懐かしい封筒が顔をだした。それは、まだまだ子供だったころ。まだまだ若さという力があったころ。書いたものだった。もとは、薄い水色をして、綺麗な封筒と便箋だった。
差出人は、ギルベルト・バイルシュミット。そして、宛先は、未来のギルベルト・バイルシュミット。
なんとなく、懐かしい、と口にするも答える人はいない。手にとってみると、埃のあの乾燥した感触が手につく。
先ほど、久々に休みが重なった弟と昼食をとったばかりで、開け放った窓からは、夏特有の暑い、強い、けども生命力にあふれた光が降り注いでくる。本当のところは、弟とまったりと過ごそうと思っていたのだが、その弟は昔の弟子でもある菊やフェリシアーノと一緒に出かけてしまった。
今頃は、三人でわいわいと過ごしていることだろう。三人とも、特に菊に関しては弟よりもだいぶ年上だというのに、未だに身を固めるつもりはないらしく、特定の女性の影もない。それはどうだかと兄という、元師匠という立場上心配ではあるのだが、自分もどうこう言えるものではない。
今はまだ、悪友たちと騒いでいるほうが断然楽しいのだ。きっと、弟も同じなのだろう。
「・・・・・懐かしいなぁ。」
もう一度呟く口元には、どことなく笑みが浮かぶのを自覚できる。あぁ、あの頃の自分が懐かしい。
さて、そろそろ自分はもういい年になった。年々、年下の弟子と弟には敵わないような気はするけれども、それでも、この手紙に返事を書けるくらいには、経験を積んできたのではないだろうか。そう思うと、自然と普段は足を投げているようなデスクに、ちゃんと向き合う気になる。
最近では、メールで事足りてしまうけれども、今日はちゃんと、手書きで、自分の字で、書こう。あぁ、そういえば、封筒と便箋が少し残っていたはずだ。そう思って、まだ片付けの手をつけていない引き出しを開ける。すると、少しだけ残った、綺麗な薄い水色の封筒と便箋が目にはいる。
その変化の無さに、思わず噴出してしまう。あぁ、経験をだいぶ積んだとは思ったけれども、まだまだ変わらないところもあるようだ。それが、なんとなくおかしい。
「拝啓・・・」
何を書こう。あぁ、何があったか書いてしまうのは、面白くない気がする。そうではないと分かっていても、過去の自分に未来が知れる気がして。そこは、自分の力で頑張ってもらわないといけないから、そのあたりは省くとしよう。
ほかには、何を書こう。強く、カッコよくいきたいところだけれども、相手は自分自身だ。飾っていてもしかたない。飾らずにいこう。そうだ。あの当時の自分は、今の弟よりも、だいぶ年下だ。それならば、どんな言葉を選んだほうがいいだろうか。
あれこれ考えていると、何十枚にもなりそうだから、できるだけ、書くことは絞って、要点だけ書くほうがいい。そうじゃないと、読んでいる自分が飽きてしまうだろう。結構、飽きっぽいところがあるから。
大切に持っている万年筆を夢中で、時には考えながら、すべらせてく。そして、最後にはあの時よりは綺麗な字で再び、冒頭に書いた名前と同じ名前を綴る。
宛名と差出人を書いた封筒に、丁寧に便箋をしまって、少し迷ってあの時と同じく、蝋だけで封をする。それは、自分の瞳と同じ、深紅の蝋だ。
ギルベルトは、久々にちゃんと掃除をしようと思って書斎のデスクを引っ張り出してみると、黄ばみはじめた懐かしい封筒が顔をだした。それは、まだまだ子供だったころ。まだまだ若さという力があったころ。書いたものだった。もとは、薄い水色をして、綺麗な封筒と便箋だった。
差出人は、ギルベルト・バイルシュミット。そして、宛先は、未来のギルベルト・バイルシュミット。
なんとなく、懐かしい、と口にするも答える人はいない。手にとってみると、埃のあの乾燥した感触が手につく。
先ほど、久々に休みが重なった弟と昼食をとったばかりで、開け放った窓からは、夏特有の暑い、強い、けども生命力にあふれた光が降り注いでくる。本当のところは、弟とまったりと過ごそうと思っていたのだが、その弟は昔の弟子でもある菊やフェリシアーノと一緒に出かけてしまった。
今頃は、三人でわいわいと過ごしていることだろう。三人とも、特に菊に関しては弟よりもだいぶ年上だというのに、未だに身を固めるつもりはないらしく、特定の女性の影もない。それはどうだかと兄という、元師匠という立場上心配ではあるのだが、自分もどうこう言えるものではない。
今はまだ、悪友たちと騒いでいるほうが断然楽しいのだ。きっと、弟も同じなのだろう。
「・・・・・懐かしいなぁ。」
もう一度呟く口元には、どことなく笑みが浮かぶのを自覚できる。あぁ、あの頃の自分が懐かしい。
さて、そろそろ自分はもういい年になった。年々、年下の弟子と弟には敵わないような気はするけれども、それでも、この手紙に返事を書けるくらいには、経験を積んできたのではないだろうか。そう思うと、自然と普段は足を投げているようなデスクに、ちゃんと向き合う気になる。
最近では、メールで事足りてしまうけれども、今日はちゃんと、手書きで、自分の字で、書こう。あぁ、そういえば、封筒と便箋が少し残っていたはずだ。そう思って、まだ片付けの手をつけていない引き出しを開ける。すると、少しだけ残った、綺麗な薄い水色の封筒と便箋が目にはいる。
その変化の無さに、思わず噴出してしまう。あぁ、経験をだいぶ積んだとは思ったけれども、まだまだ変わらないところもあるようだ。それが、なんとなくおかしい。
「拝啓・・・」
何を書こう。あぁ、何があったか書いてしまうのは、面白くない気がする。そうではないと分かっていても、過去の自分に未来が知れる気がして。そこは、自分の力で頑張ってもらわないといけないから、そのあたりは省くとしよう。
ほかには、何を書こう。強く、カッコよくいきたいところだけれども、相手は自分自身だ。飾っていてもしかたない。飾らずにいこう。そうだ。あの当時の自分は、今の弟よりも、だいぶ年下だ。それならば、どんな言葉を選んだほうがいいだろうか。
あれこれ考えていると、何十枚にもなりそうだから、できるだけ、書くことは絞って、要点だけ書くほうがいい。そうじゃないと、読んでいる自分が飽きてしまうだろう。結構、飽きっぽいところがあるから。
大切に持っている万年筆を夢中で、時には考えながら、すべらせてく。そして、最後にはあの時よりは綺麗な字で再び、冒頭に書いた名前と同じ名前を綴る。
宛名と差出人を書いた封筒に、丁寧に便箋をしまって、少し迷ってあの時と同じく、蝋だけで封をする。それは、自分の瞳と同じ、深紅の蝋だ。
作品名:Letter for me 作家名:深山柊羽