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Letter for me

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 蝋が固まって、ぐっと背伸びをすると、来客を知らせるブザーが鳴る。
「ギルー?」
「ギルちゃーん?」
 声と呼び方からすると、どうやらアントーニョとフランシスのようだ。珍しく、弟だけではなくあの二人とも休日だったようだ。はいはーいと返事をしながら、玄関へと駆けて行く。その足取りは、なんとなく楽しく、軽い。今にもリズムを刻みそうだ。
「チャリで海行こうぜ!!」
 玄関を開けるなり、かけてあった自転車の鍵を見せて、開口一番に言うと、玄関先に立った二人はきょとん、と互いに目を見合わせた。アントーニョの日に焼けた肌と、フランシスの日差しを反射する金色の髪がまぶしい。
 どうしたものか、という表情をした二人だが、次の瞬間、にっと楽しそうに破顔する。
「もちろん、ギルの運転やんなぁ?」
「言いだしたのギルだしねぇ?」
「なっ・・・!!」
「ほなら、はよいくでー!」
「ほらほら、ちゃんと戸締りしたのー?」
「そんなんよりはよいこーや。」
「ちょ、お前らっ・・・戸締りくらいは・・・」
「玄関だけ閉めとけばええやろ。」
「まぁ、そうだね。」
 矢継ぎ早に、楽しそうに言われる。アントーニョが、玄関先でもたついているギルベルトを引っ張り出すと、フランシスが勝手知ったるなんとやらで、鍵を持ち出すと玄関の鍵をかける。
 そこに置いてあるママチャリのサドルにアントーニョが乗ると、後ろの荷台にフランシスが乗り、結果的に、ギルベルトが立ちこぎのような形になる。
「立ちこぎかよ・・・!海までこれは無理だろ!」
「じゃないと三人乗れないしー?」
「我慢しいや、ギル。」
「まぁ、三人交替で漕げばどうにかなるでしょー。」
「っったく!!」
 不満そうに言うギルベルトも、どことなく笑みがこぼれる。こうやって、三人で遊ぶのはいつぶりだろう。頻繁に会ってはいるし、会話も弾んではいるものの、この空気はどことなく久々のような気がする。
 夏の日差しがまぶしく、地面に反射する。ぐっと力を入れて漕ぎだすと、後ろから野太い歓声があがって、ついにはそれが笑い声に変わる。何に笑っているかはわからないけれど、それがうつったように楽しく、笑いがこみ上げてくる。
「コノヤロー!みてろよおおおおぉぉ!!」
「きゃー!ギルちゃん素敵―!!」
 ペダルにかかる圧力は二人分。翌日は筋肉痛かもしれない、とは思う。けれども、笑い声が、夏の日差しが、目に映る街の景色が、嬉しい。
 結果として、楽しいのだ。こいつらといると。
 こいつらと過ごすことのできる自分が、とても誇らしいのだ。
作品名:Letter for me 作家名:深山柊羽