Letter for me
拝啓 ギルベルト・バイルシュミット様
お元気ですか。と聞くのも、違う気がしますが、お元気ですか。あなたが、今、とても悩んでいることは、感じることができます。
けれど、今悩でいることは、きっと、これから先、なくなることのない問いです。それは、とて
も辛いことです。生きていることから、逃げ出したくなるような事実です。
すべてが敵に見えることもあるかもしれません。すべてが、自分を傷つけようとしているように見えることもあるかもしれません。すべてが、この世のすべてに、希望を失うこともあるかもしれません。
消えてしまいたい、消えてしまえれば楽だ、と思うこともあるでしょう。あったでしょう。それは、何年経った僕でも、変わることのないことです。
しかし、それら全部が、あなたがこれから歩むなかで糧になることです。それら全部が、あなた自身をつくる血となり、肉となることです。
とにかく、今のあなたが一番信じるべき相手は、自分自身です。
何年経っても、僕は弱いままです。苦しく、辛く、眠れなくなり、悪夢にうなされることもあります。弟がいるのに、カッコイイ兄ではありません。
それでも、あなたが一番信じるべき相手は、自分自身です。
自分の好きになった人、自分が信じた人、そのことに誇りをもってください。
たとえ、どんな辛い別れがあったとしても、自分の好きになった人、自分が信じた人、その人たちを好きになった自分を、その人たちを信じることができた自分を、誇りに思って下さい。
その一つ一つが、あなた自身になります。
どんなに辛い経験をしたとしても、あなた自身の経験はあなたひとりのものですから。
僕は、その、たくさんの辛い出来事にも負けずに、生きてきたあなたを誇りに思います。
あなたが、少しでもより多くの幸せと笑顔をみつけられることを祈っています。
敬具
ギルベルト・バイルシュミット
作品名:Letter for me 作家名:深山柊羽