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よしこ@ちょっと休憩
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君と旅をする

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 その倒れる姿も愛らしく、人々の注目を大変集めていましたとムーンブルク王女から皮肉たっぷりの報告が届いた。主役のルーナより悪目立ちしたとはサトリも悪気はないといえ気の毒な真似をする。
 ムーンブルク王女の誕生日を祝した盛大な舞踏会。それを台無しにしてくれた奴の失態に、まだ子供だった彼女は溜飲が下がらなかったのだろう。噴火寸前の彼女は家臣団にこぞって諫められてサトリの部屋へ乗り込むのを諦めたルーナ王女は、ムーンブルク王からよい子のご褒美として風の塔の鍵をもらい、海岸を領地として賜ったらしい。社交界にようやくデビューした子供に領地とは王も太っ腹なもんだ。それでもルーナは収まらず、遠縁も遠縁の俺に手紙を寄こすのだから怒りの深さが知れる。
 そうそう、誕生日当日、俺はローレシア海軍の訓練に同行してローレシア沖往復40キロを泳いだ後、浜辺から荷物を持って陸地へ駆け上がり、塹壕を掘る訓練をしていた。
 まあ、だから、あの手紙は王女の誕生祝いをさぼった当てつけも兼ねた手紙だったんだな……とか今頃になって俺も察してみたりする。思い出せば冷や汗が出てくるが、俺は誕生日プレゼントも面倒だからと贈らなかった。怒りがいが無くてすまんな、ルーナ。
 ムーンブルクの王女はサマルトリア王子に負けず劣らずべっぴんだ。
 混じりっけのない金髪と深い紅色の瞳をしている。彼女もロトの血の発現とは遠いが、ムーンブルク王女には生まれついた天賦の才、絶大な魔力があった。弱い4つで雲を巻き起こし、7つで遠見の水晶の扱いを覚え、10になるころには古今東西の魔術書を諳んじた天才。彼女には後からロトの末裔、魔法国家ムーンブルクの次期女王という賞賛がいくらでもついてきた。まあ王族なのでこちらも美しい容姿をしている。俺もムーンブルクはいい女だなと思う。きっとこの席に彼女がいれば、やはり男の目は極上の女であるルーナが席捲するだろうな。
 だが、ルーナは行方知れずだ。俺の前には剣の腕も残念、魔法の腕も残念、ロトの子孫を名乗るには万事が残念なサマルトリア王子しかいない。
 サトリは確かに文句のつけようがない綺麗な顔をしている。彫りの深い俺たちローレシアとは対照的な、華奢な鼻筋と、卵形の優しい輪郭、潤んだような碧の目は瞳が大きい。パンを含む唇は男の癖にふっくらとした厚みがあって、いかにも柔らかいんだろうなーと思うような薄桃色をしている。
 嫁ならいい。嫁なら嬉しい。サマルトリア王が、コイツそっくりな母親を嫁に貰って浮かれるのも分かる。
 だが、そういうのを戦の仲間に押しつけられた俺は決して浮かれられない。実用性に乏しい飾りナイフでオオムカデを叩けと言われて喜ぶ戦士は居ないだろう。古くて汚くても良いから斧か槍をよこせ、と怒鳴り返す筈だ。
 サマルトリア王子を引っ張っていけという任務は、俺一人で魔王を殺せと言うより困難な任務だった。途中で死んだら放置して良いならともかく、この、どうみたって足手まといなのを守りながら戦う?
 ……無理だ。
 俺の頭の中をたった一つの結論が飛び回る。
 豪勢な食事がさらに俺の胃を痛めつけた。
 そんな俺の心情を余所にサトリの面に鼻の舌を伸ばしている食堂の連中は、あの兄さん羨ましいだとか、今夜は頑張るんだろうなとか下品な事を言ってくれる。そういう役目で従軍する側女も知っているが、サマルトリア王子よりよほど役に立つだろう。
 お楽しみ!?それどころじゃない!ロンダルキアにより近いムーンブルクを、この目立って仕方のない金髪頭をつれてどうやって探索しろというんだ。教えてくれ!
 俺がいつまでもスープを掻き回したままなのを見て、サトリは再び頭を下げて俺に謝った。
「すみません。僕が迂闊でした。ちゃんと戦に備えて爪は切ります。他にも気を付けておくことがあれば言って下さい。僕は従います」
 子供よりも素直な返事をされて、どきりと戸惑った。同じ年の男が、身分に差のない男に向けて言うには、なんとなく照れくさくて躊躇いそうな素直さをサトリは持っていた。俺は気を付けておくことなど思い浮かばず、ただ頷いた。
 こいつがこんなに素直だから俺も、けっきょく面倒を見てしまう。
 サトリだって爪を切ると言い出すからには、それなりに自分が足を引っ張ってる自覚があるんだろう。そうでなくては俺が救われない。
「ちゃんと切っておけよ。爪は剥がすとナイフで脚を抉るよりいてえぞ」
「分かった。ここの敵も強いし、僕、明日から槍で頑張るからヨロシクね」
 のんびりと答えてサトリはもう一度笑う。
 ――何がヨロシクだ。お前と俺が戦いの場で対等な訳がないだろ。つまりこの席でも対等ではないって事だ。
 と、本音は言えずに、俺はリンゴの更に残ったシロップを指に付けてなめた。サトリが少し眉を潜めてから、いたずらっ子のように笑って、俺の真似をする。白い指が皿を拭い、とろりと垂れる重みのあるシロップがマニキュアのようにサトリの指を飾る。俺の気も知らない麗人の微笑に、こっそりとこちらを伺っていた酔客達がざわめいた。
 あの10枚の爪を剥がして宝箱に大事に保管しておきたい。そんなことを思った。