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あさめしのり
あさめしのり
novelistID. 4367
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日曜午後、ささいなる野望

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 かわいい恋人がわざわざ海を越えてやってきているのにほったらかしで、二次元の嫁を迎えに行くなんて。あまり想像はしたくないが、黙っていれば嫁を連れて帰宅した日本は一人で引きこもってティッシュの山をこさえるのだろう。恋人が来ているにも関わらず、だ。
 新作ゲームのヒロインとやらがどれほどのものかは知らないが、絶対に俺の方が優れているに決まっている。
「そうだよね、ぽち!」
 寝転がったままぽちを抱き上げて高い高いすると、ぽちはまたきゅんと鳴いた。ほら、ぽちも俺の方がいいって言ってる。俺だってマンガも映画もゲームも大好きだけど、やっぱりつきあうなら立体がいいに決まってる。
「よし!」
 ホットパンツから剥き出しになった足をてこに勢いよく起きあがると、三次元の恋人の優越性を実証すべく俺は台所に向かった。



 台所に立って、はて日本はいつも何を作っていただろうかと思う。米飯、味噌汁、魚か肉、それからお浸しなんかが多いらしい。俺が来るときは、味気ないと文句を言うからたいてい肉料理が多いが、彼一人だと一汁一菜で十分だという話を聞いたことがある。
 せっかく作ってあげるのだから、彼を唸らせてやりたい。おいしいですよと言ってもらいたい。だが、残念ながら俺は生まれてこの方あまり家事、特に料理というものをしてこなかった。育ての親の味覚が残念なことも手伝って、俺は正直言って自分が料理上手だとは思わない。
 だが、そうも言っていられない。
 俺は冷蔵庫のなかを漁り、とにかく焼けばなんとかなるであろう鯖の切れ身を魚焼き器にぶち込み、ほうれん草の束をほどくと沸騰した鍋に放り込んだ。
「味噌汁は簡単だよな!」
 だってお湯に味噌を溶かすだけだもの。
 さすがに具がないのは味気ないだろう。一応冷蔵庫のなかにあった豆腐をぼとぼとと入れておく。入れる際、若干形が崩れてしまったがまあどうせ胃のなかに入ってしまえば同じことだ。構わないだろう。
 あと用意すべきものは白米だ。釜に計量した米を入れて研ぐ。水はなかなか透明にならない。白っぽく濁った水が、本当にきれいになるのだろうか。適当なところで切り上げて、水を入れることにした。米櫃の数字は2を押したから、要は釜の内側の2と書いてあるところまで水を入れればいいのだろう。釜を炊飯器にセットしてスイッチを押すと、炊飯がスタートしたことを告げる軽快な音楽が流れた。
「ふう、できたんだぞ」
 濡れた手をふきんで拭く。見れば、アメリカを出る前に塗った右手のネイルが剥げていた。爪の先の色も、ラインストーンもところどころ剥げてしまっている。せっかく日本に会うからと塗ってきたのに。
「……日本のばか」
 早く帰ってきて。ほうれん草は茹であがって、魚だって焼けてるよ。ご飯だってもうすぐ炊きあがるし、味噌汁だってできてるんだ。
 若干の空腹を抱えながら、俺は畳に寝転がってコミックを広げた。



「……リカさん、アメリカさん」
 俺の名前を呼ぶ声がする。肩を揺さぶられて、薄く目を開けるとそこには日本の姿があった。
「起きてください、アメリカさん」
「う…ん。帰ったのかい」
「ええ、ただいま戻りましたよ。お留守番させてしまってすみません」
「待ちくたびれて寝ちゃったんだぞ……」
 眠い目を擦る俺に、日本はもう一度すみませんと苦笑した。
「お詫びにピザ、買ってきたんですけど……」
「本当かい!?」
「ええ、でも」
 その必要はなかったみたいですね。
 日本は、畳で寝ていたせいでくっきり痕のついた俺の頬を撫でた。
「晩ご飯、作ってくださったんですね。ありがとうございます。アメリカさんに作らせるつもりはなかったのに……」
 その顔がひどく申し訳なさそうで、俺はそんなに俺は彼の恋人として何もしてあげなかっただろうかと思ったが、口に出しては自分がやりたかったからなんだぞと答えた。
「俺は君の恋人なんだから、ご飯だって作って食べさせてもらうばかりじゃないんだぞ」
 日本は薄く微笑んで、もう一度ありがとうございますと言った。
「では、一緒にいただきましょうか」
 台所に向かう日本にくっついていく。
 日本は、ああ、おひたしが作りたかったんですねと納得して、茹でるだけ茹でてあったほうれん草を切って鰹節を乗せ、醤油をさっとかけた。魚焼き器のなかにあった鯖は冷めていたので、仕方なく皿に載せてレンジにかけた。味噌汁の鍋は、ふたをあけると何を入れましたかと聞かれた。素直に水と味噌とあと豆腐だぞと言うと、苦笑されてしまった。どうやら俺はまだまだらしい。
 それが少しだけ悔しくて、頬を膨らませると、日本は初めてにしては上出来ですよと笑った。
「……今日ばかりは手料理をおいしいと言われたがるイギリスの気持ちが理解できる気がする」
「では、今度イギリスさんとお料理教室でもされてはいかがですか」
「それ、問題の解き方がわからないからってわからない二人が一緒に勉強会やるくらい効率悪いんだぞ」
「それもそうですね」
 わからないものが何人集まろうがわからないものはわからないのだ。
 くすくす笑いながら、日本は炊飯器のふたを開けた。
「グレイト! お米が光ってるんだぞ!」
「は!?」
 もくもくとあがる白い湯気のなかで、炊きたてのお米がきらきらと輝いている。
「アメージング! お米が光るってこういうことなんだね!」
 ようやく炊飯器のCMの意味を理解できた。お米の粒はこうやって光るのだ。
 だが、日本はちょっと待てくださいと言うと、しゃもじでお椀に軽くよそった。
「……これは………」
 光っている。ただし、よくよく見れば米粒がではなく、米粒に紛れたラインストーンが、だ。
「ワオ! こんなの食べたらお腹の中がキラキラしちゃってますます素敵になっちゃうんだぞ!」
「ちょ、ば、馬鹿なことはやめてください! キラキラとかそれ以前にお腹痛くなっちゃいますって!」
 口に入れようとした俺からお椀を奪い取ると、日本は全部破棄です! と叫んだ。
「ええー、せっかく作ったのに」
「いけません。手、見せてください」
 日本が想像したとおり、俺の爪からはいくつかラインストーンが剥がれ落ちていた。料理するうちにいつの間にか紛失した右手の爪のラインストーンは、なるほど釜のなかにあったのだ。
「うー」
「うーじゃありません。今日のところは、ご飯の代わりにピザにしますからね」
 変な取り合わせだが、致し方ない。俺と日本は、変な食べあわせの夕食をとった。

 完璧な夕食を用意して日本を驚かせるという計画は失敗に終わったが、不完全ながらも日本にも思うところはあったらしい。
 その晩、日本は俺とセックスした。いつ以来だろう。随分ご無沙汰だったせいで、途中で寝室にゴムがないことに気づいてストックを洗面所まで取りに行ったり、俺のブラジャーを外すのに時間がかかったりとやたら手際が悪かったが、それでも俺は彼が俺を抱いたことに満足して、体臭の薄い彼の胸に顔を埋めて眠った。別にやったあと、彼を離すまいという意図があったわけではないが、俺は一晩中彼にくっついて眠った。
 翌朝珍しく早くに目を覚ますと、彼は俺の隣で寝息を立てていて、俺はそのことににやりと笑った。