die vier Jahreszeite 004
ジーンズのポケットに捩じ込んであった財布を抜くと,中から千円札を一枚抜き取ってマシューの立つレジに叩きつける。
「ヴルスト,二本貰う!」
「はいはい」
先週からホット・スナックのコーナに仲間入りした本格派ドイツ製を謳う極太のソーセージを専用の紙で来るんでマスタードとケチャップをぶっかける。
その包みを二つ手に,俺はフランシスたちの元へ戻った。
「とりあえず,これ食ってけ」
「うわ,なんやすごい」
「随分立派なソーセージだ」
お兄さんのには負けるけどね。
しょーもないシモネタを口にするフランシスに「それ云いすぎやろ?見え張んなや」と茶化すアントーニョ。
ぎゃあぎゃあやりながらヴルストを頬張る二人を見てると,視界の端を客が店に入っていくのが見えた。
「悪ィ,客だ」
「ん,俺らもそろそろ行くし」
「だな。ギルベルト,お前年末年始は?」
「31日は昼からバイト。1日はいちおー休み」
「おお,タイミングええなー。せやったら初日の出見に行かん?それと初詣」
「いいぜ」
「よし,決まりだな。近くなったらまたメールする」
「おー」
いつもの放課後みたいに「またなー」と言い合って手を振って別れる。
店に戻ろうと歩き出すと「ギル,ちょっと待った!」とアントーニョの声がして,俺は足を止めて振り返った。
どん,と身体がぶつかるような衝撃。
それと同時に顔…というより耳に,やわらかなものが触れた。
「これもおまけにつけたる。年末まで風邪引くなよ?」
云うなりへらっとアントーニョは通りで待つフランシスの下へ笑って走り去った。
何だ?と耳に手を遣ると,さっきまでアントーニョがしていたイヤマフだった。
「チクショウ。なんだんだアイツら」
胸がぎゅっとしめつけられるような心地がする。
湿っぽいのなんか冗談じゃねえ。
そう思うのに,鼻の奥がツンと痛む。
耳も,首元も,寒くない。
手の中のケーキ,すげえ楽しみだ。
俺はぐっと仰向くと掠れた声で呟いた。
「クリスマス,楽しすぎるぜ!」
見上げた空からひらり,ひらり,雪片が落ちてくるのが見えた。
作品名:die vier Jahreszeite 004 作家名:葎@ついったー