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げつ@ついったー
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ドタイザ詰め合わせ

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メロウメロウ(門→臨)



憂いがこの世に生むものなんて、本当の本当にとことん無為なものばかりだと思う。悩み、倦怠感、空虚、暇、病気、死、エトセトラエトセトラ。憂いは思考を緩慢に殺し、結論を薄靄の中へと葬り去る。目と鼻の先、ほんのすぐそこにあるシンプルなそいつをだ!
「まったくもって下らない。それこそナンセンスだ。……そう思うだろ、ドタチン」
「……まあ、そうだな」
ドタチン――門田京平は律儀に読んでいた文庫本に栞までして臨也に答えた。臨也の演説を聞くのは初めてのことではなく、むしろ比喩ではなく数えきれないほどなのだが、そのたびに演説のテーマが変わることを門田は感心していた。毎度こんなことを考えながらこいつは生活しているのか、道理でこんな生きづらい人間が出来上がるわけだ、と哀れんでもいた。高校最後の夏、昼休みが始まってすぐに買ったパックのカフェオレはもう汗も出ないぐらい温まっていた。机には流れ落ちた水滴が水溜まりを作っていて、それさえも恐らく、生温いに違いない。たぶんもう美味くないんだろうな、これ。
「憂いは罪だよ、ドタチン」
100円のカフェオレにぼんやりと興味をうつした門田を咎めるように、臨也は声を張り上げた。爽やかなのにどことなく危険を孕む、夕立のようなそれに、クラスの何人かがこちらを振り向いた。それも声の主がこの折原臨也だと分かると何でもないことだというように各々の作業に戻った。事実、何でもないことなのだ。
折原臨也という男が突然奇行に走り、空論を謳いだすことはそれこそ、真夏の通り雨のようなものだった。来た瞬間には驚くけれど、暫く経ってしまえばありがちなことで終わってしまう。
「『君、恋は罪悪ですよ』」
「……どうしたんだ」
「ドタチンが構ってくれないからドタチンの興味のある話をしようと思って」
今読んでるんでしょ、『こころ』。そう言って臨也の細く白い指が指し示したのは、門田が今しがたまで読んでいた文庫本。臨也の女のように華奢な指は、門田の武骨な指よりよっぽど文庫本に馴染んだ。折原臨也という男は、何をしても画になる男なのである。
「ドタチンってば理系クラスなのによく読むよねぇ」
「数式より暇が潰しやすいだろうが」
「『こころ』なんてまたリリカルでロマンチックなものを読むじゃない。これでこそ俺が愛すべき愚かな人間の理想だよ」
白く細い女みたいな指がぺらりぺらりとページを捲る。存外に物の扱いが丁寧なところに育ちの良さが出ていると門田は思う。門田の友人にはお世辞にも育ちがいいとは云えない仲間が多いので。そういえば、このように女のような指を持った友人というのもなかなかいない。臨也という人間は門田の狭くはない人間関係の中、どこにも属さない珍しい人間だった。
憂いは罪だと彼は云う。だがしかしそう語る彼が一番この世の憂いを、この世に生きる上で疎ましい色々なものを愛している。まったくもって生きづらい人間である。この世の、人の罪を愛すだなんて、そんなことが、それではまるで――、
「君、憂いは罪悪ですよ。……なんちゃって」
「お前時々頭悪いな」
「ドタチンひどい!」
昼休みが終わる鐘が鳴る。慌てて飲み下したパックのカフェオレは勿論生温く、無駄に甘くて全然美味くなかった。門田は溜息を吐く。
「お前の話を聴いてたら温くなった」
門田はそう云って彼の女のように華奢な手から文庫本を取り上げる。門田の憂いも恋も全部臨也が原因なのだから、云うなれば罪悪は臨也だ。それなのに臨也は何だかんだ気に入ったのか、また同じフレーズを繰り返す。まるで神の遣いのように高みから愚かを咎める愛の言葉みたいに。自分が下界で何をしているのか、そんなのまったく知らないくせに。君、憂いは、恋は罪悪ですよ!





メロウメロウ
2010-08-28