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げつ@ついったー
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ドタイザ詰め合わせ

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Night Drive(門←臨)



(赤から青に変わる前に、キスしない?キス、しよう。)



 夜のネオンが瞬いては消え、近づいては遠ざかる。時折サーチライトのように二人を照らす光の中、一瞬昼へと変わる世界。 対向車線のヘッドライトが過ぎ去ると、また辺りは夜へと変わる。閉鎖されたふたりの空間はどこか浮世離れているのに、その刹那の一瞬がふと臨也を現実に連れ戻す。 外の喧騒は嘘みたいに、ここは無音。ラジオぐらいつければいいのに、思いつつもこの空間が存外苦ではない自分がいる。 普通ならこんな平凡で大人しいお行儀のいい場所なんて、考えるだけで御免だというのに。隣の男は拒否するでも受け入れるでもない、 よくも悪くも優しい男なものだから、つい許された気分になってしまう。
 ――許されるべきではないことぐらい、心得ているのに。
「ドタチンの運転好きだなぁ、俺」
「そうか」
 普段は刃物のように周囲を傷つける臨也のことばも、門田の前では途端にその鋭さを失う。甘ったるい子供の戯言のようにその姿を変えてしまうそのことばを、 声を、臨也はあまり好ましいとは思わない。
「何でいつもあのワゴン運転しないの?」
「そりゃあお前……、あれは渡草の車だしな。俺も大して運転が好きってわけじゃねえし」
「上手なのに」
「そりゃどーも」
 ちらりとこちらを見た視線が確かに自分の顔と身体をなめていったのを臨也は感じた。
(何でドタチンだったかなぁ……、)
 出血こそあらかた止まったが、未だはっきりと残る血の匂い。笑うだけで顔も身体もひどく軋む。額、左目蓋、口の端、肋骨。 身体中のあらゆる場所が嫌に痛む。何人にやられたのか。誰の差し金か。恨みを買う仕事はそれこそ腐るほどしていたから、もうどの絡みの恨みなのかさえ分からない。 とにかく分かっているのは、臨也にしては迂闊な、久しぶりのミスだったということ。一通り痛めつけられたあと、朦朧とする視界と意識の中、 ほとんど無我夢中でかけた先が彼の携帯だったのだという。だったのだという、というのはもうその辺りの記憶が臨也の中にないからだ。 気がついたらここにいた。この現実離れした、この空間に、この男とふたりで。
 恐ろしいことだと、臨也は思う。
「……訊かないの?何があったか」
「どうせ想像がつく」
 普段運転なんかしないくせに、ハンドルを右に切る動作がやけに様になっていて、この男らしいと思う。一瞥もくれずにまっすぐ前だけを見据えるその視線も、また。
 門田はいい人間だ。善良で常識的な考えと倫理観を持った正しい人間だ。別に臨也は自分が間違っているとは思っていないけれど、 決して褒められるものではないことも分かっている。自分は歪んでいる。臨也と門田はちがう。違う世界で生きる、違う人間だ。 臨也はそこを履き違えたくなかった。踏み越えたくなかった。臨也は門田という人間に人並みに好意を抱いていたので、なおさら。
 このまっすぐな人間を、歪めたくない、と。臨也はそう思うのだ。
「……訊いて欲しいのか?」
「え、」
「顔、ずっと見てるから」
「いや、そういうんじゃ、」
 ないけど、と続くことばは減速する車と一緒に次第に尻すぼみになって、消えた。前を見ると信号機は暗闇の中で赤く煌々とその存在を誇示している。 止まってしまった世界の中、臨也が好きなその瞳がまっすぐ彼の眼を見据えるものだから。
「……かえりたく、ない、なぁ、」
 恐ろしいことだ。恐ろしいと思う。その記憶がないことではなく、あんな極限状態の中、無意識下でこの男を呼び出してしまったこの事実が。 するりと口をついて出た本音が。
 踏み越えたくない、と。間違いたくない、と。思っていたはずなのに。
「そうか、今のさっきじゃ事務所も危ないだろうな……、うち来るか」
 彼はあくまでも優しい。良くも悪くも優しい男だから、いつか良からぬ輩にあっという間に付け込まれてしまうのではないだろうか、 自分を差し置いて臨也は不安でしょうがない。本当はそんな意味ではないことぐらい、分かっているだろうに。 時々この男がどうしようもなく憎くなることがある。どこまでも誠実で、どこまでも優しいこの男を、傷つけたくなることが。 歪んでいる。歪んだ、汚い独占欲。
「……きょう、へい、」
 呼び慣れない名前を呼ぶときはいつだって声が震える。情けない。こどもみたいだ。

「・・・ごめん、ありがと」

 ああ、ちくしょう。こんなことが云いたいんじゃない、のに。



 赤から青に変わる前に、キスしたい。キス、しよう。
(、なんて、云えたらいいのに)





Night Drive
Titled by Tsuyoshi-Doumoto
2010-08-20