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鍋の日

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数名の側近を従わせ、準備された護送車に乗り込もうとした時、四木は群集の中から見知った人物をとらえた。しばし視線を向けていると相手も気付いたようで、一度会釈してからこちらに歩いてくる。互いの距離が縮まると、四木が目をかけてやり先日側近に昇格したばかりの男が、背後で殺気立った。しかし他の者は慣れたもので、新人を宥める。納得がいかないようで気配は剣呑なままだったが、近付いてくる相手の姿がはっきりとしていくうちに、男のそれは戸惑いに変わっていった。
いたって平凡で小市民的な、特徴のない少年。そうあらわすのが妥当な存在が、間違いなく自分の上司に歩み寄って来ている。男も四木も職業が職業なだけに、そんな存在がにこやかに声をかけるような対象からはかけ離れていた。鉄砲玉や奇襲を疑うには、あまりにすさんだ空気がない、まさしく普通の人間だった。
男が言葉を失っている姿を見て、他の側近たちは笑う。わずかに苦いものも含まれているのは、過去の自分を見ている気にさせるからだろう。
「こんばんは、四木さん。」
幼く大人しそうな少年にしか思えない存在が、四木に親しげに話しかける。そうされることを当たり前のように受け止め、四木も笑った。端から見ればおかしな図であるが、当人たちは気にもとめない。
「こんばんは、竜ヶ峰さん。買い物ですか?」
「はい。急に臨也さんが鍋をしたいって言い出して。」
「それは大変ですね。随分と買い込んだようで、重そうだ。」
帝人の両手は、付近のスーパーのレジ袋で塞がっている。袋いっぱいに詰め込まれたそれは、貧弱な体型の帝人が持つとやけに危なっかしく見えた。中途半端に強がっている並みの不良やチーマーはいいカモだと思うのかもしれないが、並大抵ではない強者には逆に庇護意識を芽生えさせる。そんな外見を帝人はしていて、現に今も背後の側近たちがそわそわと落ち着かない雰囲気で帝人をうかがっている。
苦笑しながら、四木はレジ袋に手をのばした。
「よければ、送らせますよ。」
帝人本人にしてみれば利益もあるが不本意でもある外見は、実年齢を聞けば誰もが耳を疑うほどに幼い。四木が初めて会った頃から、帝人は不思議と外見に変化がなかった。周りの帝人への扱いが未成年者に対する過保護さに近い原因の大部分は、それのせいだろう。
帝人を蔑ろにすることは、子どもをいたぶっているようで良心の呵責を覚える。けっして見た目通りに幼さのある性格はしていないが、わかってはいても人間は視覚による印象を優先させてしまう生き物なのだ。
帝人からやんわりと取り上げたレジ袋を、側近に渡す。申し訳なさそうに遠慮する帝人を、四木は強引にならない程度に促した。
「でも、四木さんも帰宅されるところだったんでしょう?」
「急いで帰るような用事はありませんよ。」
「えっと、じゃあ。…そうだ!四木さんも一緒に鍋しませんか?」
「はい?」
「用事はないんですよね?ご迷惑じゃなかったら、ですけど。せっかく鍋をするなら、人数が多い方が楽しいと思うんです。」
帝人の話からすると、夕食に鍋を強請ったのは臨也である。となれば、当然鍋の席には臨也がいるわけで。池袋を縄張りとする名うてのヤクザと新宿の情報屋とその情報屋の助手な童顔青年が、三人で仲良く鍋をつつく図。シュール。あまりにシュールである。
はたして、それは楽しいのだろうか。帝人は常識的であるようで、その感性はやはりどこかおかしい。
なんと返すべきか、四木は考えを巡らせるが、断った場合の帝人の反応を想い、結局頷いたのだった。




作品名:鍋の日 作家名:六花