ひあそび
「ちょっとね……」
臨也さんが珍しく口籠もっている。詳しくは知らないけど、彼の兄弟はそれなりに難がある人物らしく、あの臨也さんが閉口することがあるそうだ。でも、彼の兄弟なのだから、美しい容姿をしているのだろう。それだけは確信している。
それにしても、こんなこと、というの性的な意味でなのだろうか、臨也さんの行動からすればそう言うことになるが、それを兄弟で言い渋るような事態があったのだろうか、おかしいとは思わないけど、矢切君のお姉さんのことを思い出しただけだ。
「今日は背中痛そうだから、帝人君。上になってね」
「それがいいですよ。先輩、俺、支えますから」
いきなり、なんでそんな話になるんだろうか、いつも二人言い争っているというのに、こんな時だけ同調するのは何故だ。今だって、左右両足から同時に手を差し込まれている。必死に身を捩ったり、手で押さえようとしているけど、こんな時だけ共闘してお互いに助け合っている。その見事なコンビネーションが腹正しい。
「ちょっと、なんの話してるんですかっ」
話題を逸らさないと、このままだと僕は二人に頂かれてしまう。別に、行為自体は嫌ではないのだけど、僕はまだ夜の海を堪能していないし、夕食だってまだだし、近くに温泉があるそうだからそこにも行ってみたい。そう臨也さんに言ったら、今度は温泉付の旅館にするかい?と言ってくれたのが嬉しい。次がある、少なくとも行ってもいいと思われることは嬉しいことだ。
楽しみや、やりたいことは沢山あるのに。二人とセックスしてしまえば、それで本日の予定は終了してしまう。勿論、二人とすることも楽しみだけど、でも此処だけでしか出来ないことをしたいんだ。
それに、此処で流されてしまうと二人の策略に填められた気がして気分が悪い。こう言うときだけ結託する二人を見ていると、なにか密約でもしているんじゃないかって疑いたくなる。
「なんのって、ね」
「ねぇ、夜の話ですよ。先輩」
二人の平均以上に整った顔が、僕の目前で並んで笑っている。どこか含みのある表情も、綺麗な顔立ちを損なうことはなくて、むしろこれから起こるであろうことを否が応でも想像させられる。
「やっぱり、二人とも仲良しじゃないですか」
「こういうときだけね」
「まあ、それには同意しますね」
お互い向き合って頷き合う美しい顔に、ドキドキと鼓動が高鳴る。伸びてくる腕と顔とを僕は交わしながら、こう答えた。
「まずご飯と、夜の散歩、それと温泉が先だからね」
それが終わるまでは僕は、この体にそう言う意味では触れさせない。毅然とした態度で僕は立ち上がれば、タオルがずるりと床に落ちた。
二人は顔を見合わせて、これは勝機がないと気付いたのか、肩を竦めている。こんな時にもシンクロするなんて、本当に彼等は気が合うんじゃないかと思う。そんなこと言えば、また同時に否定されるんだろうけど、そして何度でも繰り返してしまうのは、こういう三人でのやりとりが楽しいからなんだ。
【終】
ひあそび/日遊び