二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

Ladybird girl

INDEX|1ページ/13ページ|

次のページ
 

第一章





 数学に歴史、生物に地理、ラテン語、美術、体育にクラブ活動。
 そんなものをあたしたちがここで勉強しているのは、ただの茶番ではないらしい。
 曰く、
 『心身ともに健康でバランスが取れていたほうが、国を望ましい状態に導くのに適しているんだ』
(だからって、なあ)
 タイクツで、耐えがたい日々であることに変わりはなく。
(校則違反くらいしないとやってられない、でしょ?)
「おはよう、アメリカ」
 逆光でも分かる。いやまったく見えなかったところで分かってしまうに違いない。
「まずはそのだらけきったボタンをかけなさい。それからあんたに校則というものを叩き込んでやろう」
 生徒会長の腕章をつけたイギリスは、満面の笑顔を浮かべているに違いないのだ。


*


「にほん〜白衣貸して〜」
 アジアクラスの教室に立ち入る時間も惜しく、ドアを開きながら中に向かって叫んだアメリカに一瞬でクラス全員の視線が集まった。しかしそのような些事を気にする彼女ではない。机の上に座った中国が睨むのも構わずに、あきれた表情を浮かべた日本にまっすぐ近付いて小さな手を握り締めた。何かを言いかけて日本が息を呑み、何故か中国が噛み付いてきた。
「美国、てめえ日本に何してるあるかー?!」
「うるさいよ中国。同盟国と手を繋ぐのすらだめって、ちょっとお固すぎない?」
「そういう問題じゃねーあるっとにかく今すぐ日本から手を離すある!!」
「えー」
「まあまあ中国さん、私ならかまいませんから」
「日本!!!」
「で、アメリカさん。私の白衣を使いたいということでしたか」
 黒いつぶらな瞳を向けられてアメリカはいまさらのように言葉に詰まった。中国が騒いだことで逆にこちらへの興味を失った国たちの視線は早くもほとんどそらされていたが、アメリカには日本の目のほうがよほど利いた。
 5、6時間目はヨーロッパクラスと合同で化学実験。白衣なんてどこにしまったかも忘れたけれど、今朝一度持ち物検査で捕まったアメリカはこれ以上の面倒をどうしても避けたかった。朝の校門前ならばイギリスの説教も小言程度で済むが、放課後というほぼ無限の時間を得た彼女の暴走は目に見えている。
「ほら、今朝持ち物検査で一回へましちゃってさ。次の時間、ヨーロッパクラスと一緒になるからちょっと困るんだよね、あはは」
 自分でも白々しいと思う笑いを浮かべてみせると、こほんとこれもわざとらしい咳払いをした日本がやはりアメリカをまっすぐ見つめたまま、噛んで含めるようなゆっくりした言い方で、
「失礼ですがはっきり言わせてもらうと、私のサイズの白衣をアメリカさんが着て、白衣の役割をきちんと果たせるとは思えないのですが」
「うん、まあ、サイズが合わないのは承知の上なんだけど」
「そーあるよ!だから美国はさっさとあきらめて去るあるシッシある」
「中国さんはちょっと黙っててください」
「……是」
 あからさまにため息を吐かれたものの、日本の目もすこし泳いでいたのに気づいたアメリカには彼女も考えているのだとわかってひとまず肩の力を抜いた。とは言え未だにその意識の中心はアメリカの開きっぱなしの襟元にあるらしい。ではやはり中国の言うとおり手を握ったのがいけなかったのかといつの間にか胸に押し付けていたのを離せば、日本が急に椅子ごと後ずさり、空中で指をぎこちなく動かしはじめた。
「これが時速100キロ以上の車から手を出したときの感触ですか……」
「えっと、日本?」
 アメリカにはまったく意味が計り知れないような台詞まで吐き出した友人の制服をちょいちょいと引っ張ってみる。先ほどまでは尻尾を逆立てた猫もかくやというほどの勢いでアメリカを睨みつけていた中国が何故か今は哀れむような雰囲気をまとっていて、それがまたアメリカを焦らせる。昼休み終了まであと7分。まったく間に合わなさそうなわけではないが、微妙なタイムでもある。
 三人が三人とも、微妙な沈黙にとらわれていたそんなところへ。
「それならあたしの白衣を借りんだぜアメリカさん!!」
「ん?」
「おや」
「なんで既に着てるあるか韓国」
「まあまあアネキ、細かいことはいいから」
「いや細かくねーある」
「でも確かにこれならサイズは合いそうですね」
 日本の言うとおり、ただでさえアジア組の中でも身長が高めの韓国の着ている白衣はぶかぶかで、アメリカにとっても余裕で使えるサイズだ。時間と日本の様子を気にして慌てて頷くと、韓国はいそいそと脱ぎ捨て、おまけにそれなりに丁寧に畳んでアメリカに手渡した。受け取ったアメリカはにっこり笑い、そのまま踵を返す前にひらひらと手を振った。
「ありがとう、助かったよ。日本もありがと。それじゃあたし遅れちゃうから!」
「どういたしまして。気をつけてくださいね、アメリカさん」
「気にしなくてもいいし明日までに返してくれればいいんだぜ!なんせ白衣の起源はあたしゴフッ」
「黙れある。それにしてもアメリカのやつときたら我には一言もないのか。ったく、これだから最近の若いのは」
「そりゃアネキにかかったら世界中の殆どが若……あっでもそのアネキの起源はあたしだから」
「韓国さん、そのへんにしておいたらどうですか?」
「なっなんか日本がゆらゆらしてるんだぜー?!アネキ助けるんだぜ!!!」
「でかいくせに我の後ろに隠れんな!この日本は我だって怖いあるー!!」
 後ろから聞こえてくる声におかしくなって小さく笑う。アジアクラスから出たあとで、腕の中の白衣をぎゅっと抱き締めてアメリカは加速をはじめた。
(そういえば、韓国も中国の妹分、なんだっけ)
 アジアクラスの、ある意味ヨーロッパクラス以上の複雑さをアメリカは殆ど理解していなかったし気付いてすらいない節もあったが、それくらいはなんとか知っている。国と国の間の血縁関係は微妙なバランスの上に成り立っていることが多い中で、韓国にとって、少なくとも表向きだけでも中国は姉と呼べるような存在なのだろう。
 勿論、アメリカには分からない分野だった。けれどどうしてもイギリスを想起してしまうのは、やはり今朝のことと、今から起こるかもしれない面倒なことに気をとられているからなのだろう。
(お姉ちゃんって呼んだこともないのに)
 もう妹でもなんでもないっていうのに。
 考えるのすら面倒になって、それもこれも保護者面をしてくる彼女のせいなのだとひとり決め付けて化学室まで走り続けた。

*

 結論から言えば、実験自体はうまくやり過ごすことができた。イギリスとは同じ班にならなくて済んだし、さらにイギリスと同じ班にフランスがあたっていたから、彼女の注意力は殆どそちらに逸らされた。ふたコマぶんの時間はあっという間に終わり、あとは片づけが終われば化学室から離れられるところまできた。アメリカは試験管を力任せに擦りながら口笛すえ吹きはじめた。帰りにアジアクラスに寄って白衣を返そう。日本に新作ゲームをやらせてもらえる約束もしていたっけ。自然と頬が緩み、唇から出る音が怪しくなる。
「気持ち悪い」
「ふえっ?!」
「意味もなくにやにやするな、気持ち悪い」
「………………」
(うん、そりゃこうなるよね)
作品名:Ladybird girl 作家名:しもてぃ