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Ladybird girl

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 そして説教、説教、説教。全部聞き流したから内容はなにひとつ覚えていないけれど、とにかく、アメリカが生きてきた中で一番ありがたく思えたチャイムで終わった。
 だからやっぱりイギリスはアメリカに嫌がらせをしたいだけなのだ。楽しいことをしているときひとは時間を忘れるらしい。先の密室説教の際には、あのイギリスが時間を忘れていた。だからアメリカ相手に説教をするのが、イギリスには楽しくて仕方がないのだ。更に言えば、それだけ嫌われているということでもあって、言うまでもなくアメリカだって同じくらいイギリスを嫌っている。好きでいる理由も、いられる理由もない。嫌う理由は挙げればきりがない。お姉ちゃんでもないのに自然に、いや自然さを装ってかまってくるのだってきっと嫌がらせの一環でしかない。
(――あれ)
 ずきずき痛む指を押さえながら、かすかな違和感にアメリカは首を傾げた。
(なんで、『お姉ちゃん』?)
 今は他国もとい他人。昔だってただの植民地と宗主国。あのころには学校に通うなんていう七面倒な義務はなかったから、イギリスは義務として小さいアメリカに会いにきたけれど、その回数だって数えられるくらい。姉妹なんていうのは、それこそ中国や日本や韓国に適用されるべき言葉なのに。
「アメリカ?!」
 不意に頭の上から素っ頓狂な声が降ってきた。
「あんた、こんな時間にひとりで何して……して……むぐぐ」
 そういえば、生徒会長特権だかなんだか知らないけど、このひとは寮には住んでいないんだった。今すぐ自分の部屋に戻って毛布に潜り込みたい衝動に駆られたが、アメリカの両足はまるで縫い付けられたみたいにその場から動こうとしなかった。これじゃあまるで蛇に睨まれた蛙だ。思いながらおそるおそる声の出所を見上げると、ネグリジェ姿のイギリスは何故か両手で口許を押さえていた。街灯はなく、表情は伺えない。声も今は断片的にしか聞こえてこない。
「何して……のよ……るの……もどっ……ばか……帰って……」
「あの、イギリス?」
「ああっもう!!」
 先ほどは生ぬるかった風がいつの間にか冷たくなっていて、アメリカはぶるりと身を震わせ今はもうちゃんと動けることを確認して踵を返した。これ以上立ち尽くしていては、またイギリスの嫌がらせに巻き込まれかねない。が、今度は黙って消える勇気もなく、一応はこっそりと、
「用がないなら、あたしは帰ろうっかなあ」
「待ってっ。あ、じゃなくって……待って……待ちなさい……あーもうアメリカ!いいからあがっ、上がって来い!」
「うえ?!!」
「いいから、早く!こんな時間にひとり歩きするなんて、なにを考えているんだあんたはっ」
「で、でもイギリス」
「だから、あ、やっぱりだめっ、だめ。ちょっと待って、扉の鍵……いやそこで待ってろ!今降りて、鍵開けてやるから、絶対に逃げるなよ?!」
 バルコニーから飛び降りかねない勢いで身を乗り出して叫ばれ、指までつきつけられては他に選択肢もない。それに、イギリスのあまりにも感情的な剣幕が逆にアメリカを拍子抜けさせていた。イギリスが身を翻して消えたそこをぼんやりと見つめる。そして視線は、指先の白い包帯に移った。
「アメリカ、あんた、そこまだ痛むのかっ」
 庭の鉄扉にかかった錠前を開けながら、早くも目の前に現れたイギリスが少し抑えた声で問い詰めてきたのにため息を吐く。そういえば何故か痛みはもう消えていたから首を横に振って、でもやっぱり不思議だったから指を目の前に近づけてみた。少しだけ血の匂いがした。
「そう。でも、一応包帯は取替えるから、とりあえずこっち」
 怪我をした部分は丁寧に避けて自然に手を引かれる。
(もう痛くないって言ったのに)
 もっともあたたかくてやわらかい感触は悪くなかったから、させるがままにしておいた。
「まったく、いったい何のつもりであんたは」
「ただの真夜中のお散歩じゃん」
「それでも危ないことは危ないんだ。どうせ無断で抜け出してきたんだろ。……知ってるんだから、自転車置き場のこと」
「っ」
「図星か」
 後ろ手でだけで錠を閉め、そのまま扉を開けて中へ。上、下、ドアストッパー。イギリスにはそれ以上は問い詰められなかったのに、すこしずつ追い詰められているような気がする。壁に何枚か風景画がかかった廊下を通って、花柄の壁紙以外は意外にもかなりシンプルな家具で構成されているリビングへ。ストライプ柄のカバーがかかったふたり掛けのソファに導かれたところで繋いだイギリスの手はあっさりと離され、どこからかまたもや包帯と消毒液が取り出される。
 ソファの前にひざまずいて、イギリスは今度は「手」とだけ言った。アメリカも拒まなかった。お節介だとすこしだけ苛ついて、また痛みがぶり返したけれど、今はどうしてだか嫌がらせだとは思えない。だからイギリスの指がゆっくりと動き、午後よりはずっとあっさりした手当てが終わるころまで待って、彼女がしたのと同じ質問を返す。
「そういうイギリスは何であそこにいたのさ」
「眠れなかったから起きてた」
「じゃあ、あたしもそれ」
「それ、って……」
「だから、眠れなくて、ていうか、寝苦しかったのかな?うん、それで起きちゃったの」
「『眠れなくて』?」
「ん」
「あんたでも、眠れないってことが」
「あるに決まってるよ!」
 すこし語気を強めるただけでイギリスがあっさり黙り込み、アメリカはまたもや拍子抜けした。次いですこしだけ焦った。真新しい包帯で包まれたアメリカの指を掴んだまま、うつむいた彼女がそれ以上動こうとしなかったからだ。掴まれた力はちっとも強くない。だから振りほどこうと思えばすぐにでも抜け出せるのに、アメリカには出来なかった。いまさらのようにイギリスの金色の髪がほどかれていることに気づく。
 なのにふたりの呼吸音だけが聞こえる部屋の中で、手を伸ばしていたことにも気づけなかった。
 だからイギリスが突然顔を上げ口を開いたとき、アメリカは思わず悲鳴を上げていた。
「わかった」
「ひっ」
「何をそんなに驚いてるんだ」
「なんでもない、なんでもない!だから続けて、ね?」
「なら、いいんだけど」
 アメリカが意味もなくぶんぶんと手を振り回している間、イギリスは怪訝な表情で見つめてきたのだが、やがてこほん、と咳払いをして、
「真夜中の散歩、は許してやるから、これからは眠れなくなったらあたしのところに来い。今してやったことくらいはしてやる。そしたら、おとなしく寮に戻って毛布かぶって寝ろ。いいな」
「なんか、あたしのことなのに、あたしの知らないとこで決められてるみたいなんだけど」
「い・い・な!」
「……はい」
「よろしい」
 じゃ、ちょっと待ってて。いいもの持って来てやるから。
 言って、ひらりと立ち上がったイギリスがアメリカと入ってきた側とは違うドアの向こうに消える。その後ろ姿に一瞬だけ視線をやって、ソファに思い切り身体を預けたアメリカは大きく息を吐いた。
 変な約束をしてしまった。自覚はあったけれど、重い約束でもない。守らないのは簡単だ。イギリスに抜け道を知られているのはすこし面倒だが、彼女が常にあの自転車置き場を見守っていられるわけもない。
(ああ、でも)
作品名:Ladybird girl 作家名:しもてぃ