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神田襲撃事件 前編

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いつか起きんじゃないかと思ってたけど、
まさかこんなところでお目にかかれるとは思ってなかったさ!




  神田襲撃事件 前編




ここはヨーロッパの北部に位置する黒の教団、本部。
エクソシストのほとんどがここから任務を受け出発する。
本部の最高権力、室長のコムイは忙しそうに走り回っていた。

「リナリーっ!何処だ、リナリーっっ!?」

「ど・・どうしたの、兄さん」

コムイの実の妹で、エクソシストであるリナリー。
兄の叫び声に気付いて廊下で立ち止まった様子であった。

「と、とにかくっ!はやく・・リナリー!!」

「え!?・・うん」

黒の教団、室長コムイは教団内で変な事件を巻き起こす事でも有名である。
そのため、よく研究室(ラボ)から勝手に脱走を試みたりする。
リナリーは今回もそんなことかな、とコムイに腕を引かれて走っていった。
教団の何処か、暗い部屋に一人の物陰が踞っているとも知らず―――――



それから数時間後、黒の教団内修練所前。

「いやー、任務が無い日はほんと平和ですよねー」

ここ(黒の教団)は、と白髪の少年エクソシスト、アレンは顔を綻ばせながら言った。
それに頷きながら、

「そうさなー」

と同じく顔を綻ばせながらオレンジの髪の青年エクソシスト、ラビは答えた。

「いつもこういう日でも修行してるあのバ神田が珍しい・・・」

「こらこら、アレン」

そう、今日はいつもここで修行しているハズの神田の姿が見当たらなかった。
ラビが神田に会いに行きたいと言い、無理矢理引っ張られてきた。
自分たちは水と油だと言っているのに。
そして、そのまま周辺を散歩しているとラビが唐突に言った

「アレン、こういうときに限って何か起こりそうな予感がするんだけど・・?」

「せっかくのオフの日になんて事言うんですか!?ラビ!」

ホントにもう、と僅かに顰め面をしながらラビを見るアレン。
ごめんさ、と謝るラビ。
そんな彼らのもとにある事件が忍び寄っていることなんてどちらも知る由がなかった。



ダダダダッ
ダダダダダッ

「・・・・アレン、幻聴かな?」

「ええ幻聴ですよ、ラビ」

ダダダダダッ
ダダダダダダダッ

「アレン、音が近づいてきてる気がするのは・・」

「間違いなく幻聴ですよ、ラビ」

ダッダッダッダッ
ダッダッダッダッダッ

「いやいやアレンさん、これは間違いなく・・・」

「ただの幻聴です」

アレンは幻聴と言い切るようだ。
普段、アクマに追われていて忙しい彼らにこれ以上の面倒事は体に毒であることは間違いない。
しかしそれと構わず起こってしまうのがここ、黒の教団である。
廊下を走る音と混じって声が聞こえてきた。

「こらっ!待ちなさいっ!!」

二人は足を止め顔を見合わせた。

「この声・・・」

「リナリー!」

「やっぱ何かあったんさ・・?」

「リナリー、どうかしたんでしょうか?」

二人は廊下で佇み、なお顔を見合わせている。
足音はより彼らに近づいてきていた。


「待ちなさいっ!」

「もういいっ!!」

「ホントに足早いんだから・・・」

お前だって早いだろ、と追われている者は心の中で呟いた。
普段から修行をしているからであると思うが。

「いい加減に止まりなさい!」

「だから、いらねぇって言ってるだろっ!?」

「しょうがないわね・・・イノセンス発動!黒い靴(ダークブーツ)!!」

「っっ・・・・」

リナリーは黒い靴(ダークブーツ)の適合者である。
一旦身に纏うと音速を超える早さで移動することが可能だ。
それは反則だろっ、と心から思った。

そんな二人の前にアレン、ラビが立っていた。
アレンとラビは同時に振り返り場の様子を窺った。
一人の人をリナリーがイノセンスを発動してまで追いかけている。
見た目からアクマでない様子は分かるが・・・。

リナリーは前方に二人がいることは気付いていたが、一方は気付いてない様子だった。
後ろばかり気に掛かるのだろう(リナリーが追いかけるからね・・)。

イノセンスは発動したリナリーは教団内で最速は間違いない。
もう少し、とリナリーが手を伸ばす。
一方は必死に走ってそれを拒む。
が、リナリーが襟袖を掴もうとしたその時、走っていた者が躓いた。

「っ・ぅわッ・・・・」

ラビの目の前で。


ついにダダダダッという走り追いかける音は止んだがドンという音が修練場に鳴り響いた。
ラビは咄嗟に自分に向かって倒れてきた人物を受け止めた。

「痛ッ・・・」

「だ、大丈夫さ?」

(この声・・・)

「リナリー、大丈夫ですかー!?」

「アレン君、ラビ!捕まえてくれたのね!」

(―――ラビ!)

リナリーはイノセンスを発動し急に止まることが出来ず、空中で体を逆さまにしスピードを落としていた。
そのまま降下してきたリナリーにアレンが手を差し伸べる。

「リナリー、イノセンスを発動して追いかけっこはダメですよ」

誰もリナリーに勝てるものはいなくなってしまうでしょうから、とアレンは続けた。
リナリーは少し恥ずかしそうに顔を赤らめ俯き加減になる。

「ところでどうしたんです、リナリー」

そんなに慌てて、とリナリーの方を見つめるアレン。
リナリーは、はっと思い出したかの様にラビの方を見る。


「どけっ・・・馬鹿兎!」

「え・・・・?」
(バカ・・ウサギ・・・)

リナリーが追いかけていた人物はラビの腕から逃げようとしていたところであった。
再び走る体勢を、とろうとした。
そこで可憐な声がいつも以上に圧力を掛けてラビに降りかかってきたのだ。

「離さないでっ、ラビ!!」

「エ・・・・あ、ハイ・・・」

ラビはリナリーから追われてきて、今にも逃げようとするのを再び自分の腕の中におさめた。
逃げられないように少し力を入れて。
ラビの腕の中でやだっ、離せと言う声が聞こえる。
思った以上に力はあるみたいで再びラビのの腕から逃れようとする。
ラビは、同じようにまた力を込めて腕の中に閉じこめた。

フニッ

「「・・・・っ///」」

(・・ッ、女ッ・・!?)

ラビの体は男にはない、女性特有の膨らみを感じた。
一瞬ラビの腕の力が緩まったのが分かり、再び逃げ出そうとする。
ラビは反応することが出来ず、容易に彼の体から抜け出すことが出来た。
が、一本の腕が伸びてきて彼女の肩をリナリーが掴んだ。
逃げないように、ガシッという音が聞こえてきそうなぐらいの勢いで。

「やっと捕まえたわよ・・・神田!!」

「「え!?神田ッ(ユウッ)!?」」

アレンとラビは同時に叫んだ。

ラビは改めて彼女を見た。
確かにユウと似とりはする。
仄かに石鹸の香りがする長い黒髪。
透き通るような白い肌。
何故かサイズの合っていないだぼだぼのシャツとズボン。
だが、あるはずの無いものがあった。
先程感じた胸の膨らみ。
身長は自分と2センチしか変わらないハズなのに10センチ以上の差がある。
リナリーと並んでも少し高いぐらいか。
思わず声が出てしまった。

「・・・ユウ?」

少し情けない声が出てなんとなく恥ずかしくなった。
作品名:神田襲撃事件 前編 作家名:大奈 朱鳥