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神田襲撃事件 前編

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彼女の体がピクっと反応し、ずっと俯き加減であまり見えなかった顔が陽に当たる。

「ラビ・・・」

いつも通りの真っ白な透き通った肌。
走っていたせいか、恥ずかしいせいか、僅かにほんのりピンク色の頬。
思わず喰らいつきたくなるぷっくりとした唇。
綺麗で一つの汚れもない漆黒の瞳。

体つきは違うが見間違えるハズは無い。
いつも横に居るのだから。

ラビは石のように固まった。

「あーあ、また始まりましたよ。いい加減に人前で止めて下さいよね」

「しょうがないじゃない、アレン君」

語尾にハートマークを付けるような言い方でそっと神田の側を離れるリナリー。

「か・・・可愛すぎさっっ!ユウッッ!!」

ラビは叫んで思わず飛びついてしまった!
ただでさえ細いのに小さく、より細くなってしまった体にラビの体を受け止める力はなく、そのまま後ろへ倒れてしまった。
アレンは見てられないという様子で手を額に、もう一方の手を腰に当てて溜め息を吐いていた。
リナリーは思い出したかのようにラビを押し退け立ち上がった神田の腕を掴み、言い放った。

「さて、神田。戻ろっか?」

「・・っ、だから嫌だって言ってるだろ!?」

神田は掴まれた腕を振り解いてラビに抱きつく。
と、すぐに我に返ったように顔を赤らめてバッとラビから離れる。

「わー、神田。甘えたがりですね」

「っ・・うるせぇ!今のは反射だっ!」

「へー、反射するぐらい普段ラビにくっついてるんですか」

アレンはニヤニヤと黒い笑顔を見せながら神田を見る。
神田はしまったとでもいう風により一層顔を赤らめた。

今度はラビが神田を抱きしめた。

「!」

「アーレン、俺のユウちゃんをこれ以上虐めないでさー?」

「まぁ、ラビがそう言ってる事ですし」

全く、自分勝手に人を呼び出しといてとブツブツ言いながら。

「リナリーも、何でユウを追いかけてたんさ?」

ラビの腕の中にいる神田の体がビクっと反応した。
よほど恐い目に遭ったのだろうか、とラビは神田の方を向いた。

「さっき兄さんから・・・」



「ここだよ、リナリー!!」

「え・・ここって・・・」

黒の教団内に1フロアに広がって存在するコムイのプライベートな実験室。
その最も最奥の部屋。
その部屋の前にコムイとリナリーは立っていた。

「兄さん、ここは知らない人の方が多いはずなんだけど・・?」

「え、どうして紹介してないの!?」

「・・・危険だもの」

一瞬の間が空いた。

「とにかく、見て!リナリー!!」

普段滅多に開くことのないドアがギィィィと音を立てて開いていった。
薄暗い、ひんやりとした実験室。
寝台の近くにはたくさんの薬が入った薬棚、金属製の椅子があった。
入り口の近くの椅子には彼女の見慣れたコートが掛けられていた。
リナリーは途端に顔を青くする。

「これって・・・神田の・・」

「あ、大丈夫だよ。命に別状は無いから」

「兄さん!?神田に何したのっ!??」

「僕じゃないって!リナリー!!」

ホントに何にもしてないから、とリナリーの肩を掴んで落ち着かせるコムイ。
そして、二人は部屋の奥に進んでいった。
遠くから見たら暗くてハッキリと分からなかったが、近くで見たら分かる。
今、この部屋の寝台には誰かが横になっている。
リナリーは恐る恐る寝台に近づいた。
コムイは部屋の照明を強くした。
刹那、寝台に横になる神田の姿がハッキリと見えたのだった。
苦しそうにハァ、ハァと息をしながら、顔を上気させて横になる神田の姿が。
リナリーは途端に寝台に手をつき神田に向かって叫ぼうとした。

「静かに。命に別状は無いとは言っても、とても苦しそうだからね」

「神田・・・ッ」

リナリーは出かけた叫び声の喉の奥で止め今にも泣きそうな表情で神田に向かって小さく呟く。
そこで、彼女はある事に気付いた。

「・・兄さん、神田・・・何か小っちゃくなった・・?」

「そうなんだ・・・・・」

そう言うと、コムイは神田の体に掛けてあったシーツを取り払った。
リナリーは目を丸くした。
体が小さくなっているだけでは無い。
胸は膨らみ、腰回りは細くなり、腕も足も細くなっていた。
まごうこと無き女の姿をしていたのである。

「兄さん、コレ・・・?」

「まだ僕にも分かってないんだ」

コムイも寝台に近づいて苦しそうにする神田の姿を見る。

「とりあえず、この部屋は少し冷えるし科学班の目が届くところに移動させた方が・・」

「うん、もし神田君をこんな姿にした犯人がその辺をウロウロしてたら困るからね」

「あ、兄さん、だから滅多に人の近づかないこの部屋に?」

「僕だってちゃんと考えてるんだから、リナリー」

コムイはそう言って、一回り体の小さくなった神田を抱えてリナリーと共に科学班のラボへ向かった。


研究室へ着いて、数時間後、神田は目が覚めた。
まだ僅かに顔は赤いが、意識はハッキリしているようだった。

「・・・ここは?」

「科学班の研究室よ、神田」

神田は寝ていたソファから身を起こし自分の姿を見て驚愕した。
服もぶかぶかでかなり余裕がある。
シャツも今の自分の体のサイズに合って無く、鎖骨が見えるくらいの大きさである。
それと、僅かに高くなった自分の声に。

「神田、どうしてそんな姿に?」

「・・・分かんねェ」

「任務から帰ってきて、何があったの?」

「・・・覚えてねェ」

神田は緩慢な動きでソファから立ち上がり、ズボンの裾を折り曲げシャツの捲った。
そして近くに立てかけられていた六幻を手に取り扉に向かって歩き出した。

「待って!神田!」

「・・・」

「まだ神田の狙ってる人が教団内にいるかもしれないの!」

「俺を・・・狙ってる?」

「それに、服のサイズ合わないでしょ?」

今着てる神田の服だってぶかぶかだし、と続ける。

「新しい団服が出来るまで私の服で我慢して?」

「ハァ!?」

「今ならそんなに身長も変わらないし、元々神田って細身だから私の服入ると思うんだけど・・」

そんな格好だったらろくに教団内を歩けないでしょ、とリナリー。
神田は間髪入れず、

「絶対に断る!!」

そう叫びバンっとドアを開けて科学班の研究室から逃げ出したのであった。
すかさずリナリーがその後を追いかけ今の状況にまで発展してしまったという。



「まぁ、それは誰でも逃げ出すと思うさ、リナリー」

「でも・・・」

「とりあえず格好は今のままでいいじゃん。問題は・・・」

「神田を狙ってるっていう人が未だに教団内に居る事ですね」

「うお、アレン!いつになく積極的!?」

「ただでさえベタベタしてて目の行き場が無いっていうのに、さらに狭められたら視界が無くなります」

アレンは若干軽蔑したような目でラビを見た。
ラビはそんなアレンに苦笑いを浮かべながら、でもやっぱり仲間だなと感謝していた。

「とりあえず、ユウはこれから常に俺と行動なっ!?」

「何で・・・ッ」

神田はラビに手で口を塞がれ上目遣いでラビを睨み付ける。
(そんな顔したってホント煽るだけなんだけどなぁ・・)

「ラビ、キモイですよ」
作品名:神田襲撃事件 前編 作家名:大奈 朱鳥