人生は須らく結果オーライなのである
ああ、駄目だ。疑問ばかりが湧いてくる。わからんばかりでは埒が明かん。ここはまず冷静に一つ一つ解決を試みるべきだろう。私は深呼吸をひとつすると、とりあえず最初の疑問をぶつけてみた。が、鋼のの答えは想定以外というべきか想定以上のものであった。
「ああ、人間の繁殖とちっと違うから。あの後すぐ子ども出来て、んでリゼンブール行ってすぐ産んで……んで、まあオレ的にも体力がな。やっぱ出産てすげえ疲れて。汽車乗るのもしんどくて。だからちっとばかしゆっくりしてきて今日やっと大佐にコイツ見せに来られたんだ」
当たり前のように鋼のは言うが。だがしかし。
すぐ子どもできてすぐ産んで……。
人間の繁殖と違うから……。
ええと、だね、そのちょっと待ってはくれないだろうか?はっきり言って思考が追い付かないのだが。
混乱している私を見て鋼のは悲しそうな瞳を向けてきた。
「嬉しく、ねえのかよ……。大佐が欲しいっていうからオレ頑張ってコイツ産んだんだけどな……」
などと泣きそうな声で言うから。
「いや、違う鋼のっ!驚いたんだ!!一週間やそこらでまさか子供ができるとは!と言うより君が産めるなんて思ってもみなかったから!!ほら出産は普通ならば……そう、トツキトオカなどと言うではないか!確かグレイシアがエリシアを産んだ時そんなことを聞いた気がするのだよ。それに君に指輪も贈っていないし結婚式もまだではないか。君と暮らす家も買っていないのだよっ!子どもが先に出来てしまえばそちらを早くしてしまわないととだね、今私は何から手をつけていいのか混乱しているんだ!慌てているんだ!」
ぜいぜいはあはあと肩で息をしながら口早に告げてみる。唾が飛んだのは少々大目に見てくれたまえ。鋼のは、あっそうか。順番ちっと違ったかなどと納得してくれて。私はほっと胸を一息下ろして。いや、胸などなでおろしている場合ではないのだがね。
「んじゃその辺何とかしねえとな。あー、結婚式は……こいつがもちっと大きく育ってからじゃないと難しいよな。今授乳すんの大変だし。家は……別に今の大佐のこのアパートでもオレはいいけどさ」
授乳。というのはあれか?鋼のの胸から母乳が出るのだろうか?
流石にそんなあからさまな質問はできなかったのだが。
なにはともあれ、私の精神的許容量は限界だった。
下手なことを言ってこの恋人と怒らせたり悲しませたりしたくはない。
だから、私は。だから何が何でも無理矢理にでも、この現実を飲み込もうとした。
そう、この赤ん坊が何者であれその他もろもろ納得できないものが何であれ。鋼のが私と結婚の意志を示してくれたのだ。これを幸せと言わずして何とするっ!!物事の良いところだけを見ようとする私は実に前向きだと思うだろう。なあ、そうだろうっ!!頼むから誰かそう言ってくれたまえよ……。
そうして。疑問は全て保留にして指輪を買って家を買って鋼のには改めてプロポーズをした。
そうして。子育ては夫婦の共同作業だろうなんて良い夫ぶりを私も見せて。
そんなふうに過ごしていれば子どももすくすくと育っていって。
まあ、これが実に私によく似ているのだ。顔などは瓜二つ。思考経路もよく似ている。間違いなく私の子どもだ。
夢見た通りの可愛い妻と可愛い子どもだ。
……多少の不条理には目を瞑ろう。魔女がなんだ魔女っ子がなんだ。男の鋼のが子どもを産んだくらいで動揺してたまるものか。
多少の疑問や不条理があっても今が幸せならば問題はない。無いと言いきってみせようではないか。
人生は全て結果オーライだ。
無理やりにでも言いきってみせるともっ!!
これでいいのだ、と。
可愛い妻にかわいい子供。
そうだ、私はこの上もなく幸せだっ!!!
‐終‐
作品名:人生は須らく結果オーライなのである 作家名:ノリヲ