祈り
カーテンの隙間から漏れる月明かりに照らされて、銀色の髪が七色みたいに輝く。綺麗だな、とぼんやりと思った。どんなに疲れていても、悩んでいても、コイツには死んでも言えないけど綺麗だと、ライナはいつも思っていた。顔とかじゃなく、魂とか、心とか、そういうものが。身体の内側にあるものが綺麗だから、きっとコイツは輝いて見えるんだろうな、などと柄にもない事を考える自分に苦笑して。
大切なものだから、大切にしたいから。シオンがあまりにも自分を大切にしないから。
だからせめて。
「……おやすみ、シオン」
そして、手にとった髪にそっと口付けて、寄り添うように身体を寄せて、ライナはそっと目を閉じ、眠りに落ちていった。
「……………」
ライナの寝息が聞こえて来て、シオンは瞳だけを開いて、天井を見上げた。
少ししてから僅かに首を巡らせて、隣で眠るライナの寝顔を見つめる。
そして、泣きそうに顔を歪めて、微笑んだ。
「……そんなに俺を甘やかすなよ、ライナ」
心底困ったな、と思いながら、もう一度天井を見上げた。ライナが身じろいで、額がシオンの肩に触れる。柔らかい髪の感触と、体温の暖かさに、どうしようもなく泣きたくなった。
先ほどライナが触れた目元に、ずっと僅かな熱が灯されたような気がしていた。それほどに、愛しげに優しく指先は触れて。思わず身じろいでしまったほどに。
こんな暖かさを知ってしまったら。こんな優しさを受けてしまったら。これ以上こんな愛情に包まれてしまったら。
ライナと、フェリスと。三人で過ごす陽だまりみたいな居心地のいい、何よりも失いたくない場所。
それを失うのが確定している未来への恐怖に、耐えられなくなりそうで。
身体よりも心の痛みに悲鳴を上げ続ける自分を、保つ事が出来なくなりそうで。
まだ、もう少し、あと、もう少しだけ。
いつか来る本当の絶望の扉を自らの手で開く、その時まで。
夢を。幸せな夢を。記憶に刻みつけさせて欲しい。
いないと判っている神に、祈りたくなる。いるのはロクデナシの化け物だらけのこの世界で、同じ化け物としてあがくだけあがく事を決めた日から、その日を覚悟出来ていたはずなのに。
なのに、恐れている。こんなにも温かいものを、優しいものを、愛しいものを。失う以外の選択肢が存在しない事に、絶望している。
だからシオンは祈った。神ではなく、隣で眠る愛しい者に。
せめて、今だけは優しい眠りを。睡ろむ柔らかな眠りを。
どうか。
「………おやすみ、ライナ」
夢で会えたらいい。そう思いながら、シオンはもう一度、祈るように瞳を閉じた。