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「 拝啓 」 (4)

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悲鳴にも似た帝人君の声にハッと目を開く
その瞬間、ぐらりと俺の視界が傾いた


(え、…?)


いや、俺が傾いたんじゃない
傾いたのは――飛行機だ


一瞬の間をおいて騒がしくなる機内
焦りを含んだアナウンスが流れるも、騒がしい機内では上手く聞き取れない
けれど、ただ事ではないことは流石に分かる


窓の外を見れば、空は薄暗い雲に覆われ、いつのまにか雨も降っている
遠くで雷が光って、消えた
その中を機体は、かなりの速度で降下していた


「そん、な……」


嘘だろ、まさかこんな下手な漫画みたいな展開があるわけがない、なんて本気で思った
けど目の前の景色はそんな容赦なく現実を叩きつけてくる




これからどうなるか、それを想像して咽喉を鳴らした
冷たい汗が背中を伝ったのが分かる
無意識のうちに手足が微かに震えていた




『臨也、さん…臨也さん…っ』




悲鳴に似た帝人君の声を、思い出した
あぁ、まさか


帝人君のあの悲鳴は――






(帝人君、)






少しだけ逡巡して、ポケットに手を突っ込む
取り出したのは電源の入っていない携帯電話だ
開いて、電源ボタンを長押すと、黒かった画面に光が戻った
本当ならここでは電源を切っておかないといけないけど、この状況で咎める人もいないだろう


アドレス帳の、毎日開いていたページを見つめる
向こうは夜中だとかで自重してたけど、ここにきてそう思うのは止めることにする


だって、きっとこれが






浮かんだ言葉を無理矢理飲み込んで、通話ボタンに指を掛ける
どくん、と心臓が鳴った


その時
がたんっ、と急に立ち上がった隣の席の男に腕がぶつかった


「しまっ……!」


その衝撃でするりと携帯電話は俺の手から離れ、床に落ちる
慌てて拾おうとしたが、立ったまま慌てる乗客によって遠くに蹴飛ばされてしまった


「……っ」


最悪、最悪だ
どうしてこの俺が、こんな目に!


一気に溢れた情動は、無意識のうちに隣の男を殴り飛ばそうと手を伸ばしていた


しかし、それは途中でぴたりと止まる
こんなことしたって、無駄だ
力の抜けた腕はぼすりと音を鳴らして落ちる
隣の男は相変わらず英語でなにか叫んでいるが、もうどうもよかった
携帯電話は探そうにも、何処に行ったか見当がつかない


諦める、しかないのだ




(そうだ、これでいい)
(ここで帝人君の声を聞いたら、諦められなくなる)


生きようとすること、帝人君のいる場所へ帰ること
どんなにそれが絶望的だとしても、それでも諦められなくなる


だから、これでいいんだ






一際大きく機体が揺れて、それに合わせて機内に響く声も大きくなる
そんな光景を俺は他人事のように眺めていた
馬鹿だなぁ、そんなに騒いだってどうせ――でも、


でも、完全に諦めることが出来なかったのは、やっぱり帝人君に触れたかったから
声を聞きたかったから
笑顔を見たかったから


これから先もずっと一緒にいたかった、から








(優しい帝人君のことだから、きっと泣くだろうな)
(でもさ、帝人君)


(どうか君は、)
(泣かないで、笑っていて)






どうかこれからも、俺が大好きな笑顔でいてよ
そうしないと安心できないじゃないか
だから、ね






(ずっと、ずっと)


「俺は君が―――」








いつの間にか零れていた涙に気付かないまま、俺の意識は、深く深く沈んだ






(愛しい子供の声を、遠くに聞きながら)






























『緊急ニュースをお伝えします』




『日本時間xx時、●●航空xxx便、▲▲xxx-xxxが■■に墜落』




『機体は墜落後激しく炎上しており、生存者は絶望的と見られています』




『日本人の乗客リストは―――






作品名:「 拝啓 」 (4) 作家名:朱紅(氷刹)