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さあ踊りましょう!

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ワゴンの助手席でチラチラと腕時計に目を落としている門田を、最初に指摘したのは渡草だった。
「なんか時間気にするような事でもあるのか?」
「いや…そういうわけじゃないんだが…」
僅かに顔を顰めてから苦笑した門田に、ヒョイと後ろから狩沢が顔をだす。
「なになにぃ、ドタチンに良い人が出来たって?」
「それはビッグニュースっすねぇ」
「萌え系美少女?それともシットリ年上美人?あ、もしかして大人しめな同級生とか!」
「それと今日はこれから待ち合わせなんすねぇ」
「いやぁ~ん、独り占めは良くないわよ!」
「同意っす」
いきなり会話に入ってきたと思えばハイテンションで妄想を繰り広げる狩沢とそれに便乗する遊馬崎に門田は頭が痛くなってくる。
「ドタチン言うな。てか全部違う」
「え、でも待ち合わせしてるんっすよね?」
時計を気にしていたことを再度言われると、門田はグッと押し黙った。
「誰!?誰と待ち合わせしてるの!!」
興味津津、目が爛々な状態の狩沢に、ここで逃れても後々追及されることが分かっている門田は、深い溜息を一つ吐き出すと口を開こうとした。ちょうど信号待ちで止まっている車内で、皆の目が集中する。
そこへ、
「コンコン、」
ワゴンの窓ガラスを叩く音に、「え?」と全員の視線が動いた。
門田のいる助手席側の窓ガラスがもう一度コンコンと叩かれる。
「な!?」
声にならない驚きを表現した門田に、ヒラヒラと白い手が振られる。
一瞬で門田の知り合いだと判断した遊馬崎が後部座席のドアを開けると、門田に手を振っていた女性を招き入れた。
「どうもありがとう」
ペコリと会釈したのは、長い黒髪と大きな瞳が印象的な幼げな人だった。目を輝かせている狩沢にニコリと笑いかけてから、
「信号、青になりますよ」
運転席の渡草に向かって正面を指差した。
「あ、」
慌ててブレーキからアクセルに踏みかえたので、やや急発進のきらいがあり、車内がガクリと前のめりになる。
「で、誰っすか門田さん!この美少女!!」
「ちょっとドタチン隅に置けないよ~。こーんな可愛い彼女がいるなんてさ!」
興奮している遊馬崎とキラキラしている狩沢に門田は頭を抱える。
「「で、出会いは何処で!?」」
二人同時、両サイドから言われた彼女は一瞬目を見開いたあと、クスクスと笑い出した。
完璧に面白がっているその様子に、いつもの病気が始まったな…と門田は思った。
クスリと笑いを収めると、ニッコリと笑みを浮かべて口を開いた。
「とっても良いお友達がいるのね、京ちゃん」
「「「京ちゃん?!」」」
これには渡草も声を揃える。運転しているために後ろを振り返れないが、思いっきりミラーを見ている。
「いいかげん遊ぶのやめてくれよ、母さん」
「「「母さん?!」」」
「お!良い反応」
門田の言葉に三人が絶句している中、一人彼女だけが楽しそうに笑っていた。


その後、一段と盛り上がった車内に、このまま運転を続けていくのは不可能と判断した門田が手近な公園を示してワゴンを停車させた。
「改めまして、京平の母の、竜ヶ峰帝人です」
ペコリと彼女、帝人が頭を下げた。
「あれ?…姓が」
狩沢が零した言葉に帝人は頷くと口を開く。
「京平は僕の、正真正銘血の繋がった子だよ」
後妻とかではないからね、と帝人が遊馬崎に言っている。そして遊馬崎、がっかりするな。
「産んだときが若かったから、京平は父親の方に引き取られたの」
サラッと帝人は言ったが、今でも充分若いのに、これより若いときに手を出した父親って…。生温い視線が門田に集まった。
「俺が悪いんじゃないぞ…俺の父親が悪いんだ…」
溜息を吐く門田に、ポンポンと帝人が肩を叩く。
「がんば!」
「元凶が何を言うか?!」
というか、帝人が現れなかったら特に言うこともなかったのだ。
「とりあえず、ミカミカはドタチンのお母さんなんだよね!」
「童顔人妻美少女ktkr!」
「こんなに若いのに俺らより年上って…」
それぞれに呟いている彼らを、帝人は興味深そうに見ていた。それに気付いた狩沢がハッとする。
「あ!自己紹介もまだでしたね」
「狩沢絵理華さん、遊馬崎ウォーカーさん、渡草三郎さん、だよね」
あってる?と首を傾げるその姿は稚い。
「言っておくが、俺は話してないぞ」
溜息交じりに言った門田に、残りのメンバーは目を見開いた。
「まさかイザイザと同じようなお仕事してるんじゃ…」
「イザイザ?」
狩沢の言葉に瞬いた帝人に、門田が言う。
「折原臨也のことだ」
「ああ、あのボウヤのこと」
理解して笑った帝人に遊馬崎が大げさに驚く。
「あの素敵で無敵な情報屋さんをボウヤ呼ばわり…」
「だって僕の方が歴、長いですもの」
年季が違います、と無邪気に言っているが、新宿のオリハラを子ども扱いしていることに変わりはない。
「だから信号で止まっている、俺らのワゴンも見つけ出せたのか…」
納得して頷いている渡草に、「う~ん」と帝人は首を捻る。
「ま、リアルタイムな情報もそうだけど、半分は運みたいなものかな~」
才能も努力も必要だけど、ほんの一瞬を左右するのは運だから。
「その点、僕は結構ツいてるね」
フワリと帝人の瞳の奥が、鈍く蒼く光った気がした。
ギュッと狩沢が帝人の手を両手で握る。
「よかったら、またお茶でもして下さい!」
「勿論いいよ、僕も日常の京平のこと、色々聞きたいし」
狩沢は童顔美少女ゲットー!とハシャイでいる。
「情報、集められるんだろ…」
「親しい第三者からの目線で語られるのが良いんじゃない」
「そんなもんか…」
もう溜息しか出てこない。門田の非日常な人々への対応は、この母親から学んだと言っても過言ではない。最終的にはスルーするという高等技術を身に付けたのも彼女のおかげだ。
「ところで、今日は何しに池袋まで来たんだ」
もっぱら生まれ故郷である埼玉の片田舎に引っ込んでいる帝人は、情報は機械と人間の端末さえあれば手に入るという持論でもって、滅多に都市部へは出てこない。
「ちょっと、びっくり人間ショーを生で見たくなって」
帝人がそう言った直後、自動販売機が宙に舞うのが見えた。
「相変わらずッスねぇ」
「シズシズは今日も絶好調だね♪」
見ると、キラキラと目を輝かせている帝人がいた。
「京平京平!自販機が空を飛んでる!」
「ああ…」
「やっぱムービーと生は違うなぁ」
トテトテと歩いていく帝人に門田は慌てる。
「ちょっ!どこ行くんだ?!」
「え?もっと近くで見ようかと思って」
「死にたいのか?!って聞いてないし」
普段田舎に引っ込んでいる人とは思えないほど、スイスイと東京の人込みを縫い歩いていく帝人の後を門田は追う。
ぽっかりと円形に人の輪が出来ているところまで出ると、池袋の自動喧嘩人形こと平和島静雄と、新宿の情報屋・折原臨也が対峙していた。
それよりも自分の母親はどこに行ったと見回してみると、コンクリートに減り込んだ自動販売機を人目も気にせずペチペチと触っていた。
「すごいよ京平!これ本物だよ!?」
「いや、うん…」
すごく喜んでいるのは分かるが、如何せん此処は危ない。もうちょっと距離を置こうと門田が思ったところで、背後から声をかけられた。
「なぁにドタチン、彼女なんていたの?」
作品名:さあ踊りましょう! 作家名:はつき