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怪盗×名探偵 短編集

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どちらもより同じぐらい(快新)



「俺は工藤ほど薄情な人間を見たことがねえ」
 そう言って頭を抱えるようなジェスチャーをしたのは黒羽だ。
 だからどうしたと思わないでもなかったが、どうにもその仕草が大仰でちらちらと工藤の視界に映り込む。それは恐らく反応しなければ延々に続くことだと思われ、恐らくという仮定を確信に変えるのにそう時間はかからないらしい。めんどくせえ男だなあ、という態度を隠しもせずに、一瞥くれてやる。
 黒羽はとてつもなく不満そうな顔をした。
「普通さあ、普通友達が遊びに来たら本読むのやめるじゃん。なんでやめないのよオメーは」
「友達じゃないからじゃねえの」
「俺が友達っつったらもうそれは友達なんだよ! 工藤の冷血漢!」
「片側からの理論じゃ俺のことは論破できないぜ」
「……理屈じゃないだろー?」
 そういうのはどうかと思うぜ、と黒羽は繰り返し言うが、工藤新一から理屈を取ったら一体何が残るというのか。爪の先ぐらいしか残らないんじゃないのか? 工藤は一瞬でも相手にしてやったことをありがたく思えと、再度その文面に視線を落とした。
 本はいい。知らない世界が待ち受けているし、想像力を刺激してくれる。頭のマッサージには最高だ。
「そんな楽しそうな顔して……」
 じっとりと、恨めしそうな声が向けられる。そんなこと言われても、実際問題楽しいのだから仕方ない。その発言は綺麗に無視してやった。
「テレビつけるぞー」
 勝手知ったる、とでも言うのだろうか。いつの間にか手に持っていたリモコンをまるで自宅のものをいじるように動かし、適当にザッピングすると、明らかに興味なさげな地方紹介番組で止めた。本当に暇なのだろう。もうそれ以上工藤に文句を言うわけでもなく、黒羽はだらだらと画面に視線を送っている。
 だらだら。これほどによい表現が見つからない。
「あー、旅行とかいいなー」
「……」
「いきたいなー、旅行。俺に経済力があればなー、お坊ちゃんだったらすぐに行けるのになー」
「…」
「旅行」
「黙れ」
「はあい」
 そう言われることさえ予想通りという顔だ。諦めているのかおもしろがっているのか、呆れているのか。食えない男だと思いながらも、一度反応してしまったことで、すでに集中力は欠いていた。それが黒羽の手であることも重々承知で、その手にみすみす乗っかってやるのも癪ではある。しかし黒羽も黒羽で、テレビなんてどうでもいいと、意識は工藤に寄せたままなのだ。
 こんなことでは実がないにも程がある。工藤はしぶしぶ本を閉じ「で?」と黒羽に声をかけた。呟きにしては大きすぎる声だが、問いかけにしては少し足りない程度の。別に気にしているわけではないと主張しているようで、自分が嫌になる。黒羽は全てが予想の範囲内なのだろう、おかしそうに口を開いた。
「友達をほっといたわけだし、穴埋めでさ」
「その友達にたかるのか。奢れと」
「んなわけないって、さっきのは冗談! 旅行とはいかなくても遊び行こうぜ、外にさ」
「俺は本が読みたいんだ」
「もう読まないんだろ?」
「あのなあ」
 得意げな表情はやはり自分に似ているとも思うが、決して同じではない。黒羽が元来持ち得るのであろうその屈託の無さや明るさは、なかなか目を奪うものだ。工藤新一という存在には有り得ないもののように思う。
 そもそもこの男、黒羽快斗とは、出会いからして奇妙なものだった。
作品名:怪盗×名探偵 短編集 作家名:knm/lily