二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

怪盗×名探偵 短編集

INDEX|2ページ/15ページ|

次のページ前のページ
 

 江戸川コナンの姿から戻った直後、やっと取り戻した日常は、面倒を押し付けられることに終始していた。
 なにせ出席日数が恐ろしく足りていないのだ。ほとんど一年分の出席を取り戻すためには、学業を怠らず行事にも全て参加しなければならない。あと二回の遅刻で進級出来ないところまできているのだから後がない。
 警察に協力して且つ事件解決、という栄誉ある行動を前にしてなかなか凄まじい処置ではあるが、学校側としてはまったく関係ないことでもある。事件を解決している暇があったら全国模試に参加でもして一位でも取って学校の知名度を上げろと、まあそんなところだろう。
 そもそも工藤も、何か特別な処置をつけて欲しいと思っているわけではなかった。事件を解決するのは趣味以上にもはや当然のこととなっていたし、それが学業に一切関係を持たないことも分かりきっている。
 外野が「こうするべき」と主張しているだけで、止むに止まれぬ事情があっての欠席だとしか言いようもない工藤は、それはそれは勤勉に学業へ重きを置いている現在だ。
 特に最近では「学校にいる間は携帯の電源を切る」ということを覚えた。かなりの進歩だ。
 工藤にとって「元の生活」は喉から手が出るほど欲しいものとして瞳に写り込んでいた。実際取り戻してみると”思い出補正”が掛かっていたようにも思う。手にすることが困難であればあるほど輝いて見えるのは仕方ないことだ。今更ながら、小学生の生活もなかなか有意義だったのだ。二日ぐらいなら戻ってもいいかもしれない。
 こんなことを思うのにも理由があった。この生活を不満に思うことなどあるはずもないが、なかなかどうして体力が追いつかないのだ。高校級の運動となると、元のように動くことは未だ難しい。高校生の身体に子供の体力。コナンだった頃の瞬発力も戻っていない。
 体力自体は、トレーニングをすれば数カ月で戻る。しかし、目前に迫る行事には間に合わなかった。重いものを持つ限度といえば女子と比べてばまだマシ程度、普通の男子高生とは比べ物にならないほど弱ってしまっていて、設営向きとはとても言いがたい。
 あちこち飛び回っている間に事件に巻き込まれ、ちょっと体力がなくなってしまったのどうのと真実のようでそうでないような言い訳のせいも相まって、体力的に無理なことはさせられないが逃しはしない、という戦略のもと、結局学園祭実行委員に任命されたのだった。
 それはすなわち、面倒処理隊だ。

「……だりい」
 ぐったりとしながら、無尽蔵かと思うほどの人の出入りを横目で確認していく。
 予め用意された用紙に、名前と学校名、もしくは保護者かどうかを記入してもらう、という一番簡単な任務は既に別の人間に引導が渡されていて、工藤といえば「迷子の子供を探す」「落とし物を見つける」「案内をしてやる」などの雑務を一身に引き受けるなんでも係と化していた。
 これなら無理にでも設営に回っていたほうが利口だったと、本日何回目になるかわからないため息が吐き出されるも、迷子は後を絶たないし、落とし物は行き場を失ってさ迷っている。名探偵ならそういうの得意だろうし、という意味の分からない他人からの固定概念が工藤の逃げ場を完全に包囲していた。いつになったら自由時間が与えられるのか。それもわからない。
 そもそも工藤新一はその辺の芸能人より有名な男である。用なんて無くてもその姿を一目見ようと他校の女子は一定のペースで訪れるし、保護者達もまるでわが子のように褒めたたえてくるのだ。
 普通に休憩しようとする方が間違いなのかもしれない。騒がれることに悪い気はしなかったが、せめて昼食ぐらいはまともな時間に摂っておかねば後で倒れる。
 仕方ない、次に何か依頼があったら、そこで一度休憩を挟もう。きっとこのまま従い続けていれば夜の片付けまで馬車馬のようにこき使われるに違いないし。
「よし」
 そう心に決めると、なれば早く依頼人よ来い、と思うのも自然な話だ。映画のチケットでも売るつもりかという、無駄に凝ったガラス張りブースの中、気を取り直したように工藤は背筋を伸ばした。
 早く来い。出来れば落とし物探しがいい。一番効率よく見つけられるし、迷子のようにその場を自主的に動くこともない。最も面倒なのは道案内だが、それもすぐそこなら問題ない。端から端まで、例えばこの場所から裏門の出口まで案内しろと言われたら絶望的な距離だが、そもそもここは入り口だ。わざわざ入り組んだ校内を通って出口に向かう人間が居るはずもない。
 などと考えている間に、ブースの前に誰かが立ち止まった。お、依頼者かな、と顔を上げる。
 するとそこには、まるで工藤新一と瓜二つの顔があった。
 見間違いか?――反射的に眉を寄せ、その顔を観察しそうになって慌ててやめる。こういう不躾な態度は常識的ではないだろう。ガラス越しということもある。自分の顔が相手に重なって映っているのかもしれないし。
 ありえないが。
「どうかされましたか?」
 気を取り直して、義務的な声でいつも通りの笑顔を見せる。女子が騒ぎ出すようなそれだ。男に使っても意味はないと分かりつつ、不遜な態度でいるよりはいいに決まっている。
 それをみて、相手の男もにっこりやらた人がよさそうに笑った。こう、微塵も毒気の無い顔をされると、どう反応していいのか分からなくなって困るのだが。しかも見れば見るほど造詣が似通っているもので、なんだか居心地がよろしくない。俺はそんな風に笑わないと思う、だとか、そういう意味合いで。
 不自然じゃないやり方で視線をそっと外し、もう一度聞いた。
「ご要件は」
「あ、俺、この学校の裏門で人と待ち合わせしてて、場所がわかんないんだ」
「………裏門?」
「裏門」
「裏門ですか」
「あれ、ごめん、俺何か間違ってたかな?」
「いや、なんでも」
 なにも一番避けたい自体が飛び込んでこなくてもよかろうに、思わずため息をつきそうになる。他の係に押し付けようと辺りを見回すと、残念ながらほかも手一杯のようだった。
 空気を読めよ。とは勿論言わない。悪気がないのは分かりきっているし、必要に駆られているわけだから。むしろ空気を読むのはこちらの方だ。椅子から身体を持ち上げ、ご案内します、と声を掛けた。妙に満足そうな顔をされた気がする。
 よくわからない。

 裏門にたどり着くにはグラウンドを横切ってしまうのが一番の近道だが、グラウンドこそ最高に混み合っている場所でもある。様々な仕切りや謎の花道などが設置されているため、横切ることは不可能だった。仕方なく遠回りながらも一番確実な道を歩き出す。
 すたすたと自分のペースで歩を進め続けていると、後ろから慌てたような声が聞こえた。
「あ、ご、ごめん早い!」
「あ、すみません」
 年が近いという思い込みと、学ランを着ていることも手伝って、少し扱いが雑になってしまっていたのかもしれない。笑って追いかけてくる姿は人なつこさが全面に表れていて、工藤は申し訳ないと素直に謝った。
 その場所に慣れている人間が人をかき分けて歩く速度と初心者とでは勝手が違いすぎるのだ。手を引いてしまうのが一番楽だとわかっていつつ、流石にそこまでする必要は当然感じない。女でも憚られるのに。
作品名:怪盗×名探偵 短編集 作家名:knm/lily