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怪盗×名探偵 短編集

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君は孤独か(快新)



 少しの間だけ身を置かせて欲しい、と言ってきたことに対し、とりあえず全身全霊でもって拒否した。拒否したのだが、その男には拒否のきの字も聞こえていなかったらしく、現在新一のベッドの端でくうくうと寝息を立てている。
 意味がわからない。多大なる環境汚染だ。
 今回の事件に割いた時間はおよそ八十時間。その間睡眠にあてられた時間は二時間しかない。眠気で死にかけながらシャワーを浴び、やっとのことで部屋についたらこれだ。神はいないものだが、この男をこらしめる大人あたりは一人ぐらいいてもいい。
 ご丁寧に、右半分スペースがあけられているのも心底腹立たしいことこの上なかった。新一は渾身の力を込めて、男の頭をひっぱたいてやる。拳をつくらなかっただけ有り難いと思え。
 男からは「ふがっ」と予想以上に変な声が上がり、一瞬動きを止めたあと、むにゃむにゃと口元をもごつかせながらゆっくりと目をあけた。半目状態で新一のことを見、ふにゃりと人がよさそうな笑顔を寄せる。
「んあ……しんいち……おかえりい」
「っじゃねえだろ! お前なあ、折角俺が客室空けてやったのになんでここに居るんだよ!?」
「……うん?」
「寝ぼけてる場合か。即刻出て行け!」
「ええ……?」
 右手でドアのほうを指し命令すると、渋々といった風情で上半身を起き上がらせた男が、それはもう辛そうに呻く。眠くて仕方ないという声だが、それは新一も同じだ。むしろ新一のほうが何十倍も眠い。今現在この日本に、これだけ睡眠を欲している高校生は工藤新一ただ一人だろう。確信出来る。
 とにかく誰にも邪魔されず、明日の晩までただひたすら眠りの海に溺れたい。事件の後味の悪さなど忘れ、容疑者の罵声も消し、目が覚めたら一人。そうして当たり前のように次の日が始まる。
 それが新一にとって理想だった。
「って、こ、らっ、うわっ!」
 少しだけ油断したその一瞬をついて、男は新一の腕を掴むと、上半身を流れに任せるようにして倒した。立ちっぱなしだった新一は当然その引力に巻き込まれ、男の上に掛かったタオルケットに思い切り顔が埋まってしまう。
 恨めしそうに頭をあげても、男は変わらずふにゃふにゃと笑ってばかりいる。
「……おい、テメェ」
「テメェじゃないよ」
「……快斗、早く出てけ」
「……やだっていったら」
「力づくだ」
「いいじゃん、初犯だし厳重注意で見逃してよ」
「厳重注意で見逃してやるから出てけ」
 あは、と快斗はどこか的を射ない笑い方をしながら、右手で新一の頭を撫でた。左手は未だに腕を拘束して離さないが、新一が抵抗すればすぐにでも外れそうな力加減だった。
 ――最初からわかっていた。
 一度目の命令で退散しなかったということは、もう快斗にこの場から出て行く気はないのだ。一度忠告したことを守らない場合、その後は何故か決まって自分の我を貫こうとする。その線引きもよほど最初のほうで気づいていて、しかし新一はその態度が気に入らない。
 置いてもらってる身で偉そうに、という気持ちが半分。
 なんで言うことを聞いてくれないんだと思う気持ちが半分。
 後者は、手のかかる子供に大してのそれであるが――快斗はそれに近いものがあった。
「新一、もう寝ようよ」
「寝てえよそりゃ」
「俺がいて寝れないわけじゃないでしょ?」
「狭い」
「絶対動かないからさ、ね」
 くしゃ、ともう一度撫でられ、髪が少しだけ乱れた。ドライヤーで乾かすような繊細な作業はしているはずもなく、湿った髪は快斗の指に絡みついているだろう。
 快斗の声が明瞭になるにつれ、新一の視界がぼやけていく。自らを神経質な男だと考察するに、本当にそれでしかなければこんなことは許さない。
 となると、新一は、決して、その限りではないのかもしれない。

 快斗が工藤邸を訪れたのは一週間前の話だ。
 家の水道が壊れた、ちょっとどうしようもないから家族はホテルに泊まってるんだけど。でも俺はご存知の通り仕事もあって同じ部屋で過ごすには難しい。
 だから少しの間だけ、身を置かせて欲くれないだろうか。
 新一にとってはなんのメリットもなければデメリットばかりが先立つ要求で、それを受け入れる気など更々なかった。
 しかし男は、あろうことか特別人好きするような笑みを浮かべて、こう言ったのだ。
「明日死ぬかもしれないからさ、新一の顔をちゃんと見ておきたいんだ」
 形だけの思考は散文的でいやになる。快斗の言葉はひどくポエティックで現実味を失っていた。
 理論の組み立てを勉強しなおすべきだと思うし、意味不明の言葉で他人を繋ごうとするなど下衆にしか許されないやり方だとも思う。
「そんなネガティブな男を泊める気はねえよ」
「ネガティブって、その物事に対する信頼性の尺度の話じゃん。俺のはネガティブなんじゃなくて、お前の大好きな真実だよ?」
「俺が好むのは謎が自然と付与されてるもんだぜ? ……お前のそれは解き明かす意味がないだろ」
「そっか……本当でも、だめかなあ」
 頭を掻いて、参ったな、と笑う姿が目に焼き付いて離れない。快斗はいつだって本当のことばかり言う。

 ぼやけた視界はしばらくして、暗闇に変わった。 考えるのを止めるということは、諦めるということなのかもしれない。
「ゆっくり寝てね」
「……ちゃんと、……でてけよ」
「うん」
 子供のような、嘘だとわかる嘘だった。
 快斗は結局、一度だって新一の言うことなど、聞かないだろう。


作品名:怪盗×名探偵 短編集 作家名:knm/lily