この歌を届けよう
「終わったな」
ふと溢れた言葉はきっと今言うにはふさわしくなかっただろう。
しかしそれにプロイセンは
「そうだな」
と返した。
吹き抜けていった風はひどく埃っぽかった。
「この後どうするんだ?」
ふ、と知らず詰めていた息を吐いてプロイセンは訪ねた。
「ああ、しばらくはここにいる
ここにいた方がややこしくなくて済むしな」
今ドイツは米英ソ仏の4ヵ国によって分割統治ということになっている。
特殊な条件のこの街も今は4つに分けられて正にバラバラに分解されたドイツを象徴するような街だった
「お前はどうするんだ」
「俺は・・・どうだろうな。ポーランドんちかロシアんちか。」
どちらにしろいい気はしねえな、と付け足してくるりと門に背を向けた。もう帰るという意思表示らしい。
「いつ発つんだ」
その背を目で追いながら呼び掛けた。
引き留めるような声になっていないか少し気になった。
「さあな」
答えはごく簡単なものだったが
「では今晩俺が作ろう。とっておきのワインもつけてな」
それを聞いてプロイセンが何か珍獣でも見るような目で振り替える。
このご時世にそんなものがあるわけがない。みんな明日のパンの心配をしているような時なのに。
「ベルリンに篭る前に上司が移動させておいたやつが奇跡的に残っているというだけだ。もっとも、国民が疲弊している時に自分達だけ…という気もしないではないがな。」
「何だよ、いつもそんな事言わないくせによ。気持ち悪ぃな」
「この地を離れる兄弟への餞別だ。」
その言葉に、さらにうさんくさいと言わんばかりにねめつけていたが、
本気で言っているのだとわかると諦めたように一言付け足した。
「お前…一緒に居すぎてイタリアちゃんがうつったんじゃねーの?」
羨ましいこったな、と精一杯の嫌味を言ったつもりだったが、ドイツはどう捉えたのか
「ああ、そうかもしれんな」
と返すだけだった。
帰り際に振り仰いだ門は傷ついてはいたがそれでもそこにあった。何かを訴えるでもなく、ただ建っていた。
それを目の端に捉えつつ、またこの男と会う時にはこの場所に来よう。と思った。
きっと今よりずっと美しい街になっているだろう。
その時互いにどうなっているかなんて予想も出来ないが、それでもこの門はここにあるのだろう。