夏だ!おばけだ!ウサ耳だ!池袋納涼肝試し!ポロリもあるよ!
暗い路地裏を突貫結成池袋ゴーストバスターズがずんずん進んでいく。
ちなみに静雄はまだ帝人の首にしがみつき前を見ていないままだ。
「ぐえ、静雄さん、力ぐえっ」
「静雄!静雄!坊主が死ぬ・・・うおおお何か気味わりいい」
「・・・・・ッ!!!」
数メートル進むと路地裏に生ぬるい風が通った。誰もいないというのに気配が動く。
明らかに尋常ならざる雰囲気があたりを覆っている。ぱしっぱしっと配管が音を鳴らした。
「も、戻ろう!!やばいって・・・!!」
『何がだ?』
「あきらかにおかしい空気になってんじゃねーか!!」
『なるほど、わからん』
どうしてこうなった。
帝人の目がよどむ。人間代表のトムと人外代表のセルティの意見の相違は明らかだった。
そんな中、さっきから恐怖で一言も発しない静雄が更にひしっとしがみついてくる。
「静雄さん。大丈夫ですか・・・?」
返事が無い。ただの怖がりのようだ。
静雄はぶんぶん頭を振ると右手をぶるぶる震わせながら数メートル先を指した。
トムがその視線の先を追う。
「ぎゃーーーーーーーー!!!!!」
『・・・女性だな・・・』
そこには足のないスタンダードな女の幽霊がいた。向こう側が透けている。
「え?え?」
しかし帝人だけは何が何だか分からないようだ。
トムは今更ながら気づいた。ひょっとして。いやそうだ。さっきから、いや最初からこの坊主は。
静雄がおそるおそる尋ねる。
「りゅ、竜ヶ峰・・・お前・・・」
「すみません・・・。実は全然見えないんです・・・」
申し訳なさげに帝人がこてんと首を傾げた。ウサ耳がぽよんと揺れる。
「ウ、ウサちゃん・・・っ」
「静雄!帰ってきて!!」
『帝人!10歩前!1歩右だ!』
セルティの指示に帝人が一瞬驚いたのち、目を輝かせて静雄の手を解き前へ進む。
「おわーーーーーーーーーーー!!!!!」
「セルティ何を・・・!!!」
『2歩前!半歩左!』
慌てる取立て組を尻目に、海辺のスイカ割りの如く妙な連帯感を披露する。
『よし!そこだ!』
「ここ・・・に・・・いますか・・・?」
見えないので少しずつ手をあげていく帝人に、人間2人は固唾を飲んだ。もう少しで指先がその存在に届く。
一体どんな心霊現象が起こってしまうのか。覚悟した瞬間だった。
幽霊が赤くなった。
わたわた慌てると身なりを整え髪をなでつける。そして真剣な帝人と目があうと恥ずかしそうに身をくねらせた。
【や、やだ、帝人くん!恥ずかしい!変なとこあったらどうしよう、そんなにじっと見つめないで!見つめあうと素直におしゃべりできない!!】
もじくさクネクネぐるんぐるんしている。
・・・何これ。
呆然とする取立て組の前で幽霊は女子中学生並に照れていた。
トムにいたっては一度メガネをはずし拭いてもう1回かけ直し両目を細めて見直す。近眼の人がよくやるあれだ。
『あと10センチ上だ!』
「・・・ここ・・・?」
【はぅんらめえ帝人くぅんらめえ!!
逝っちゃう逝っちゃうううううう!!!・・・・・・我が人生に一片の悔いなーし!!!!!】
パーンと四散した。
「なんっじゃそりゃあああああああああああああああああ!!!!!!!!」
事態を目の前で見ていた静雄が太陽にほえろばりに絶叫した。
それが幽霊が照れて風船のように四散したせいか、女の子が北斗の拳台詞で四散したせいかどちらか分からなかったが、自分の常識のはるかに超えていたことは事実だ。
「んだセルティこれどうなんってんだ!?!?」
「ラオウたあ渋いねえ・・・」
「え?え?どうなったんですか?!」
『ほらな、帝人がいれば大丈夫と言っただろう』
こうして、急遽結成された池袋ゴーストバスターズの活躍はあっけなく幕を閉じた。
セルティが帝人に見せないようにPDAに説明した内容はこうだ。
帝人は幽霊が見えない。
しかしとてつもなく幽霊などの人外にもてるらしい。
池袋には幽霊だけで結成された『君も今日から帝人信者!(幽霊支部)』等(※他にも多数有り)親衛隊が存在しており、入隊希望は年々増えているとか。
彼女(たまに彼)らの活動内容はただ1つ。
竜ヶ峰帝人を草葉の陰から見つめること。
幽霊ネットワークで集めた情報をダラーズ掲示板で交換もしてるらしい。ちなみにそれらは幽霊部員ならぬ幽霊ダラーズと呼ばれる。
勿論抜け駆け厳禁で、プライベートへの侵害は著しく制限されていた。
帝人が引っ越した先のアパートに元々いた自縛霊は気の毒にも信者達にボコボコにされ浮遊霊にさせられたという事件もあったらしい。
「マジか・・・。すげえな坊主・・・」
「好き過ぎて昇天しちまったのか・・・」
とりあえず幽霊事件も解決し、セルティは先に帰ってしまったので男連中だけで帰り道をのろのろ歩く。
ふと気づくと帝人が後方で立ち止まっていた。
「・・・うん?どうした竜ヶ峰」
「・・・あ、はい。何でも・・・」
「腹減ったのか?露西亜寿司でも行くか。俺がおごるし」
「・・・いえ。その・・・また、見れなかったなって・・・」
「・・・・・・幽霊見たかったのか?」
事実を知ってるだけに2人とも言葉を選ぶ。
帝人はカバンの肩紐をぎゅっと握ったままつらそうに口を開いた。
「・・・僕、霊感全然無いみたいで・・・。でもずっと見たいな、って思ってて。
セルティさんもいるし、今日こそは、って思ったんですけど・・・・・。
きっと、非日常に縁が無いんでしょうね・・・」
我慢しているのだろう。その瞳が一瞬涙で潤む。
視線を逸らした帝人の切なげな表情に静雄の口からタバコがポロリと落ちた。
「もしかして、僕は、非日常に嫌われてるのかな・・・」
「んなわけねえ・・・!!!!!」
静雄が傍らの標識をボキリと折った。何してんだー!とトムが慌てて標識を地中に刺し直す。
帝人も驚いて顔を上げた。まだ付けていたウサ耳がぴょんと揺れる。
「ウサたん・・・!!」
「静雄?!おまどこにいんの?!?」
トムは標識を地中に埋め戻しながらも思考が迷子中な静雄へツッコミを忘れない。
「で、でも・・・っ」
「人外なら俺だって同じようなもんだろ!!!」
「え・・・」
「えっちがっ」
「お、お、おおおお俺にしとけーーーーーー!!!!!」
「静雄さん・・・!!!」
「わあああああ何でもない撮影撮影だあああああ散れええええええ!!!」
池袋屈指の人口密度を誇るサンシャイン通りにて告白劇を繰り広げてしまった2人を慌てて回収し事務所に逃げた田中トムの胃痛と心労の日々の始まりになる。
教訓:生きてる人間が1番怖い
作品名:夏だ!おばけだ!ウサ耳だ!池袋納涼肝試し!ポロリもあるよ! 作家名:ハルユキ