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どうかそのままで

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時刻は早朝。朝のやわらかい日差しが差し込んだ部屋で、音無はゆっくりと目を開ける。
見慣れない、しかし見たことはある天井が寝ぼけ眼に映り、あれ、と彼女は首を傾げる。どこだっけ、ここ。
しかし、その疑問は隣、しかも裸で熟睡している少年の存在ですぐに解消することになった。
……ああ、”事後”だったっけか。
 恋人のあどけない寝顔をぼんやりと見つめながら、かわいい、と音無は頬を緩ませる。
 もし、彼が起きたときに寝顔かわいかったよ、と言ってあげたらどんな反応をするのだろう。
先に起きてたんだ、と驚くだろうか。それとも男にかわいいなんて言わないでよ、と立腹するだろうか。それとも寝顔を見られていたことに恥ずかしがるだろうか。
幾つかの反応が頭に閃くたび、音無は不思議と目が冴えてゆき、そして悪戯心に胸が踊っていくのを感じていた。
――思い立ったが吉日。いっそのこと。今、起こしてしまおうか。
ベッドの棚に置いてある時計を見れば、まだ5時。休日に起きるには、早すぎる時間帯だけれど。

 だが、かわいそうかな、と思いつつも。それを上回る悪戯心に胸が逸っていた音無は。
――たちむかいくん、と恋人の名を。掠れた声で囁くように呼んだ。呼んでしまった。

「ん、」
 立向居は眉をひそめ、小さく唸る。起きるかな、と期待と不安にどきどきしながら見守っていると。
「……あれ?」
 ごろん、と寝返りを打ってしまった。
今まで向かい合っていたのに、音無から背く姿勢になる。まるで起こさないでよ、と言いたげに。

「もう…」
 無理やり起こそうとしている自分も悪いのはわかってはいるけれど。
それでも、背を向かれてしまったことが音無にとって、ほんのちょっぴり、悲しかった。まるで自分を拒絶されているようで。とはいっても、ただの臍曲りに過ぎないのだけれど。

「……ねえ、立向居くん、立向居くん」
 だが、めげずに。逞しい背中をちょんちょんと人差し指で突付きながら。何度も何度も、名を呼ぶ。
 だが依然と背中から聞こえるのは、憎たらしいほどの、気持ちよさそうな寝息。ここまで来ると全く起きそうな気配がない。余程疲れているのだろうか。

(まぁ、たしかに昨日は……ね)
 昨晩の情事を思い返し、ぽっと音無は一人赤らめる。
普段は優しくて温厚な立向居だが、夜の時は意外と余裕がなく、激しかったりする。悔しいが、一度も主導権を握ったことがないくらい。
 それは昨晩も例外ではなく。
激しいのは全然構わないし、寧ろそんな彼の一面を見られるのは恋人である自分の特権とも言えるので、逆に嬉しいといえば、嬉しいのだが。……たまには優しく、というか、身体を労わってやってほしい。
行為が終わった今でも、喉がひりひり、あと腰もじんじんと痛む。自分でさえこの有様なのだから、彼はもっと疲れているだろう。

「うーん、やっぱり今は見送ろうかなぁ……」
「何を見送るの?」
「えっ」
 心臓が跳ねる。あれ、今、立向居くんの声が? おかしいな、寝ているはずなのに。
聞き間違いかな、でも、確かに立向居くんの背から、声が……。
「……おはよう、音無さん」
 ごろん、と。立向居は再び寝返りを打つと、音無と向かい合うような姿勢に戻る。
すると、どう見ても完璧に覚醒している立向居の姿が音無の目に映り――うそ、と音無は呆然と目を見開く。
冴えきった目、そして声の調子から見ても、どう考えても今起きたばかりには見えなくて。
――もしかして、狸寝入り、してたってこと?

「……い、いつから起きてたの」
「え、えっと…音無さんが起きる、ちょっと前かな」
 しかも先に起きていたと来た。ということは、名を呼びかけた時の、あの寝返りも意図的だった、ということ?
(……どういうこと?)
――本当に、一体、どういうことなのか。
演技が上手だったなぁ、とか色々言いたいことはあるけれど、今はとりあえず。いくら彼でも。いたいけな乙女心を弄ぶなど……断じて許すまじ、である。
「どうして寝たフリしてたの」
 一転と鋭く問い詰めるような口調にすれば、立向居はますます萎縮したように身を縮こまらせ。
「そ、それは……ご、ごめん! なんていうか……悪戯、というか、仕返し、というか」
 歯切れの悪い立向居の口からは、悪戯だの仕返しだの、彼らしくない物騒な単語が次々と出てきた。
 一体何かしたのだろうか、と怒りを通り越して逆に不安になってきた音無は。私、何かしたっけ、と、萎縮しきっている立向居を安心させるように、出来るだけ優しく聞いてみた。
 だって、あの心優しい立向居だ。何の理由もなしに、自分に悪戯とか仕返しするはずがない。

「あ、う、うん。そんな、大したことじゃないんだけど」
「いいから言って」
「うん……音無さん、その、最中に先に寝ちゃったでしょ」
「え、そ、そうだったっけ?」
 おかしい。全く記憶にない。聞き返しながら、必死に記憶を手繰っているのだが、なぜか寝る直前の記憶だけがすっぽりと抜けてしまっていた。

「音無さん、イってからすぐに気絶するように寝ちゃって……。俺、まだイってなかったのに……。だから仕方なく、自分で処理を……」
「あ……。ご、ごめん立向居くん……」
 あまりの居た堪れなさに、そして罪悪感の重さに耐えきれずに、音無は思わずぽつりと、謝罪をつぶやいた。
 まさか、行為の真っ最中だったのに、イッてその上そのまま眠ってしまうとは……間抜けというか、失礼な話にもほどがある。
そして自分はまだイってなかったのに、先に寝られたことでイかせてもらえなかった立向居のショックは如何なるものか。
(そりゃ、悪戯や仕返しなんてされたってしょうがない、かも……)
 それに比べて自分はどうだ。彼に特に何かをされたわけでもないのに、気まぐれに悪戯しようとして、そのために起こそうとして(起きていたけど)……。
……なんだか、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

「ううん……それだけ無理させちゃったってことだろ? だから、謝らなくたっていいよ」
 入れ替わったように、今度は逆にしゅんとしている音無を見やり。立向居は優しく微笑みながら、彼女の頭をぽんぽん、と撫でる。
「もう……、本当に甘いんだから」
「はは……。――音無さんは、どうして? どうして俺をこんな時間に起こそうとしたの?」
「……私も、立向居くんと一緒。悪戯したかったの。――べ、別に立向居くんが何かしたってわけじゃなくて、ほんの気まぐれだったんだけど……」
「……」
「寝顔、可愛かったよ、って。言ってあげたかったの。そしたらどんなふうに反応するかなって」
 えへへ、と照れながら告白すれば。今まで静かに耳を傾けていた立向居が、途端にきょとん、と目を丸くする。そして。
「……なんだ」
安心したように、けれど少しがっかりしたように溜息を吐きながら。立向居は、言った。

……え?
なんだ、ってどういうこと。
色々な反応を予想していたけれど、この台詞は音無の全くの想定外だった。
 しん、と空気は水を打ったように静まり返っている。絶句している音無を、立向居は不思議そうに見つめていた。
まさかこのたった3文字の科白で、音無を大きく混乱させているとは露にも思っていないのだろう。
作品名:どうかそのままで 作家名:さひろ