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日々、徒然

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世の中はたいてい自分の思うとおりだし、幸い魔法もつかえる。
そうなると、人生勝ったも同然。


そんなことを、無邪気に思っていたんだよ。


当代一の魔法使いの奥さん候補、ぶっちぎり一位(というかオンリーワン)のソフィーは今日も相変わらず、ソフィーのままだった。
復興の兆し著しいとはいえ、未だ無残に突き立てられた戦禍の爪あとも痛々しい街中で真っ直ぐに顔を上げた笑顔とともにソフィーは今日も花を売っていた。
花を売りながら、戦争に疲れ果てた人の服を繕い、お腹をすかせた子にはご飯を作る。
小規模だけど再開した帽子作りも好評で、お金持ちはこぞってソフィーの帽子を買いに来る。
「本当は帽子作りはあんまり好きじゃないの」なんていいながら、言葉に反する笑顔でソフィーは器用に指を動かして、キラリとした夢の詰まった帽子を作り上げる。
ハウルはその横で、ほんの少し花が長持ちする魔法をかけたり、使う布地を少し上等にしたりと、そうとは気づかれにくい、だけどソフィーなら気づいてくれるちまちまとした魔法を使って、それなりに・・・いや、かなり幸せな日々を送っていた。
独身のくせに、扶養家族は多かった。
押しかけ弟子のマルクルに、押しかけ家政婦になった一時のソフィー(押しかけ女房とはさすがにいえないけれど)それに押しかけてはこないけれど、引取りを余儀なくされた荒地の魔女に、どういうわけか居ついてしまった師匠の使い魔。
彼らはいつの間にか本物の「家族」のようになっていて。
それにはソフィーと言う存在があったからだということは、言うまでもない。
魔法なんて力をつかえるもんだから、家族との繋がりが薄れてしまった幼少期。
それに比べれば、とても華やかな「家族」に囲まれる日々。
とても満ち足りている。
満ち足りているのだ。
ただ、一点をのぞいて。
清清しい自信に背を伸ばし、思いやり溢れる瞳で前を見つめるソフィーは、贔屓目なしにとても綺麗で魅力のある女の子だ。
いまさらそんなことを言わなくっても、それは一番ハウルがわかっていることだけれど。
いや、ハウルだけがわかっていればいいことだけれど。
その抑えがたいソフィーの魅力に惹きつけられてやってくる輩がここ最近、ぐっと増えた。
彼らは時として、とても気のきいたことを言うように思うし。時々とても思いやり溢れた人物のように感じる。
それがハウルは気に入らない。
魔法の才能でも、歩んできた人生のなかでも。焦燥感なんてものに無縁だったハウルは、ここ最近そんなものに悩まされて、日々落ち着けない。
だから今までは普通に、本の少し花が長持ちする魔法をかけられたし、布地をすこし上等にすることなんて当たり前にやってのけてきた。
けれど、今はその一つ一つをソフィーに気づいて欲しいと思っている。
いや、ソフィーは気づいてくれるのだけれど。
毎回その「ありがとう」が聞きたいのだ。
ハウルだって、ふと正気に戻るときがある。
正気というのは言い方に語弊があるのかもしれないけれど「僕はなにをそんなにムキになっているんだ」と頭を抱えたくなることだってあるのだ。
けれど、どこかのパン屋の倅がケーキをくれたとか、肉屋の旦那が上等のハムをくれたとか、どこかの隣国の王子が綺麗な宝石をくれたとか、聞くと、どうも。
毎日、毎朝、毎昼、毎晩、ソフィーの手料理を食していて。
真っ直ぐな好意を示してもらっていて。時には、まぁ、その。自慢したいけれど、もったいなくて聞かせてやりたくないようなことがあったりして。
自分は誰とも並ばない関係に居るのだと思うのだけれど、けれど焦燥感に駆られてどうしようもなくなってしまうのだ。
作品名:日々、徒然 作家名:綴鈴